2010年8月24日教室 『乾癬の最新情報 -2010年乾癬国際会議(パリ)から-』
2010年7月1日-3日パリにおいて、Psoriasis 2010 Congress of The Psoriasis International Networkが開催されました。そして7月4日、5日にはIFPA(International Federation of Psoriasis Associations 乾癬患者組織国際連盟)年次総会があり、両者に出席してまいりました。この国際会議は第3回目を迎えますが、乾癬の実地診療に役立つ知識の交換を主な目的としており、最新の治療法の紹介ばかりではなく、古くからの治療を見直し工夫すること、長期間にわたる治療による副作用の喚起、また乾癬患者のQOLについても広く討議されました。わが国の乾癬の実情について、Psoriasis International Networkの一員でもある旭川医科大学教授、飯塚 一先生が講師として講演されました。
 いくつかの話題を紹介いたしましょう。特徴としては、何と言ってもBiologics(生物学的製剤)治療の講演、発表が圧倒的に多かったことです。展示コーナーでもBiologicsを開発した製薬メーカーのブースの数々が目を引いていました。とくに昨年ヨーロッパ、アメリカで相次いで発売開始となった抗IL12/23(p40)ヒト型モノクロナール抗体;ustekinumab(商品名:Stelara、ステラーラ)のブースにはいつも人があふれていました。
 現在分かっている乾癬発症メカニズムの根元部分と考えられているIL23を抑制するステラーラは、3か月に1回の皮下注射で中等症~重症の乾癬に対し高い有効性が実証されました。ヨーロッパ・アメリカの開発試験では(PHOENIX 1, PHOENIX 2)、その有効率はPASI 75(全身の乾癬がほとんどなくなる)で80%でした。また76週(PHOENIX 1)、52週(PHOENIX 2)の試験期間中、重症の副作用はほとんど起こりませんでした。またアメリカでの試験では、先発のBiologicsである抗TNF製剤;etanercept(商品名:エンブレル)よりも明らかに優れていることも証明されました。
 ステラーラの開発試験はわが国でもすでに終了しており、その結果が今回の会議の中で日本の開発研究班を代表してNTT病院関東の五十嵐敦之先生、慈恵医科大学の中川秀巳先生によって報告されました。早期の審査・承認が期待されます。
 さらに新しいIL12/23(p40)ヒト型モノクロナール抗体;briakinumabも開発され、その臨床試験結果がアメリカから報告されていました。ステラーラ同様、優れた効果と高い安全性が述べられていました。ただ小生の疑問として、治療がたいへん難しい中等症~重症の乾癬にたいし、これほど優れた効果をBiologicsが発揮するからには、全身においてかなりの免疫抑制状態が作られていることは間違いないと思います。臨床試験期間中における副作用はみられませんでしたが、やはり長期にわたる乾癬治療の中では、免疫抑制状態に伴う副作用の懸念がぬぐいきれません。ステラーラでは3カ月に1回の注射です。その3ヶ月間の間、たった90ミリグラムの薬液ですが、体の中にとどまり乾癬を抑える=免疫抑制状態を保つことになります。副作用が生じたときに、後戻りできない、その怖さを感じます。いっぽうで、先発のBiologicsはアメリカ・ヨーロッパでは発売されてすでに5年以上が経過しており、とくにエンブレルでは副作用がほとんど生じておらず、安全な乾癬治療薬として認められつつあるようです。
 Biologics治療で避けて通ることができない問題が、治療費です。ドイツから経済的観点からの研究報告もありました。入院して治療すると格段に経済的負担が増すこと、乾癬の治療には外来治療が基本であること、Biologics治療の費用は入院で30,199.7€、外来で11,600.85€にも及んでしまうことが述べられていました。各国の保険事情により患者さんの自己負担金の額に差があるでしょうが、どこの国おいてもBiologicsは高額です。次々に登場する新しいBiologicsが価格競争で安くなる、ということはあまり期待できません。医療・福祉行政(政治家)を私たちの手で・声で変えていかなくてはなりません。IFPA(International Federation of Psoriasis Associations 乾癬患者組織国際連盟)年次総会はそんな期待の中で始まりました。
 IFPAの役割は、“-Worldwide unity for people living with psoriasis(乾癬患者を世界で結ぶ)-”
•お互いの知恵と理想を寄せ合い、乾癬患者の治療改善を目指すこと。
•世界各国で乾癬患者がお互いに助けあることができるよう、各国の乾癬患者組織作りに協力すること。
•乾癬患者、医師、研究者が一緒になって繰り広げる国際的な学会の手助けをすること。
•乾癬患者、医師、研究者の緊密な連携を促進するよう国際的フォーラムで意思表明。
そして、主要な活動の一つとしてWorld Psoriasis Day October 29(世界乾癬デー 10月29日)のデモンストレーションを世界中で行うことがあります。世界乾癬デーは世界保健機構(WHO)で承認された日付です。今年の世界乾癬デーのテーマは「Childhood Psoriasis –Challenge for all- (子供の乾癬 -みんなのチャレンジ)」(図を参照)。今年の世界乾癬デーでは、
•乾癬は子供時代にも発症することを知ってほしい
•子供の乾癬は家族全員へのチャレンジ
•子供の乾癬の治療法開発を進めてほしい
•I can do anything with psoriasis; it won’t me back(乾癬があってもへっちゃらよ、何も気後れすることないわ)と子供が言えるようなサポートを
•学校、友達、両親・家族、医療従事者、政治家、市民などさまざまなレベルでの乾癬の理解を深めること
などを行うことが確認されました。また乾癬を持つ子供たち自身が、みずからの体験、心情を絵に表し、その絵を公表したいとしています。すべてのIFPA加盟国でその絵を公募します。優秀作品には素敵なプレゼントも用意されるそうです(アイスランドにある乾癬治療温泉ブルー・ラグーンに無料招待)。
 また全世界に影響力を持つ世界保健機構(WHO)に対し、さらなる乾癬の理解を求め、乾癬の克服へ向けた活動、研究が世界規模のものとなるよう働きかけを進めることが確認されました。
 5日間の国際会議、IFPA総会はたいへん充実した内容で、細かくその内容をこの場ですべてお伝えできません。私の毎日の診療の中で、少しでも皆さまの治療に役立てていきたいと思います。また日本の乾癬患者会の絆がさらに深まり、そして世界の患者組織と歩みをともに進めていくことができるよう、私も微力ながらお手伝いしたい、との気持ちを深めた体験でした。パリ滞在の7日間はお天気にも恵まれ、夏のヨーロッパの長い昼間の時間を使い、パリの街中をカメラ片手に存分に歩いてきました。その写真をブログの「PHOTO & ESSAY」に掲載しています。ご覧ください。
 たいへん残念なことに、あろうことか、散歩中「ワールドカップすり」の被害にあい、小型カメラを盗まれてしまいました。会議・IFPA総会の模様、ポスター発表の内容などを数多く撮影した後の盗難であったため、ほんとうに残念でなりません。ワールドカップ開催中のその時、その賊は「ジャポネーゼ、ナカムーラ」と話しかけながら、散歩する私の周りでサッカーのドリブルのまね、そしてタックルのまねをしながら私にまとわりついたのでした。私はなんの危険を感じることもないまま、「チャオ!」と笑顔で言い残した若い彼をみおくりましたが、ふと気がついたときワイシャツの胸ポケットにしまっていた小型カメラは無くなっていました。皆さんもお気を付けください。

今年のWorld Psoriasis Day(世界乾癬デー 10月29日)のテーマ
(乾癬のTeddy Bear坊や)
c0219616_11561952.jpg

[PR]
by kobayashi-skin-c | 2010-08-25 12:04 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
<< 2010年7月 乾癬国際会議2... 2010年5月『トスカーナの休... >>