2011年9月27日(火)教室『乾癬の最新情報、日本乾癬学会の話題から』
 第26回日本乾癬学会が9月9日・10日、大阪国際会議場で会長川田 暁(近畿大学)のもとで開催されました。今年のテーマは、「乾癬治療の新しいパラダイム」。
c0219616_19315797.jpg

 川田先生は、こう述べられました。「近年乾癬の病態が解明されると同時に、次々と新たな治療法が開発されてきました。現在三種類の生物学的製剤が日本において保険適応となり、使用されてきています。また紫外線療法においてもナローバンドUVB療法が急速に多くの施設で行われるようになりました。いままさに研究面でも、治療面でも考え方に大きな変換点(新しいパラダイム)を迎えています。今回の学会ではこの点について概要を把握するとともに、理解をより深め、日常の診療に生かしたいと思います。」

 会長の意図をくみ、学会の内容は、研究面において乾癬の起こり方(病態)の免疫学的研究の総括が、治療面では生物学的製剤の発表が相次ぎました。おもなプログラムを紹介しましょう。

特別講演
1.「乾癬の病態:免疫細胞の異常から表皮細胞への作用」 奥山隆平先生(信州大学)
2.「乾癬表皮における組織構築の変動と角化異常の再評価」飯塚 一先生(旭川医科大学)

シンポジウム
1.「乾癬の最新の光治療」ナローバンドUVB、エキシマーランプなど
2.国際シンポジウム 日本、ヨーロッパ、米国における生物学的製剤治療
3.「バイオロジクスを正しく使おう!」皮膚科、整形外科、内科

一般の発表は82題があり、うち52題は生物学的製剤に関連するものでした。生物学的製剤の使い方の点で、次の三つの項目の討議が多く聞かれました。

1.インフリキシマブの二次無効
インフリキシマブ(レミケード)を数回続けていると、効き目が急速に衰えてしまう例がある。とくにレミケード治療を一時的に中断したときに生じやすい。これはレミケードにマウスのたんぱく質が一部に含まれているため、ヒトの体の中では異物のたんぱく質として排除されてしまう機構が働く(中和抗体)ため。こうした例では、他の生物学的製剤に変更する必要があるが、二次無効を生じた例でもヒュミラ、ステラーラは有効である。
効果が衰えてしまったのか、副作用として乾癬の姿が変容しているのか、判断が難しい例もある。中和抗体の測定が有用であるが、検査費用が高価なことが問題である。

2.生物学的製剤によるパラドキシカル(矛盾)反応 paradoxical reaction
 リウマチ患者、クローン病患者で生物学的製剤治療中に、乾癬、掌蹠膿疱症が副作用として現れることがある。乾癬の治療薬でありながら、乾癬を引き起こすこの反応(副作用)をパラドキシカル反応と呼ぶ。今回の学会では、乾癬の治療中にも乾癬が変容する症例があることが報告された。乾癬が生じる病態が、TNFα、IL-12、IL-23などを介するTip-DC→Th17細胞→Stat3の活性化→角化細胞の増殖亢進→乾癬の発症という最近の学説のみではない複雑さを示すものである。

3.インフュージョン(点滴)反応 infusion reaction
 インフリキシマブ(レミケード)は点滴注射で行なわれる。この点滴中に、血圧が下がったり、気分が悪くなったりすることがある。レミケードは抗TNFαマウスモノクローナル抗体であり、マウス(ねずみ)のたんぱく質を注射薬に含んでいる。ヒトにとっては異物であるため、排除するための中和抗体が産生されることがあり、点滴中にレミケードと中和抗体が反応することにより、アナフィラキシー様の症状を引き起こす。
 予防のため、点滴前から抗アレルギー薬の内服、点滴中のステロイド混注が行なわれる。さらに中和抗体産生予防のため、メトトレキサート内服を続けておくことが望ましいとの意見もある。レミケードのリウマチ治療では、このメトトレキサート(リウマトレックス)治療が必須である。

印象に残った発表
1.アダリムマブ投与による乾癬皮疹軽快後に休薬または4週間隔投与へ減量した5症例の中長期経過(東京女子医大、聖母病院) 生物学的製剤も完治をもたらす治療薬ではありません。いったいこの高価な薬をいつまで続けなくてはならないのか、皆さん不安に思われていることでしょう。生物学的製剤がすでに以前から使われていた関節リウマチの患者さんでは、リウマチが軽快し、治療をやめてからも長くリウマチが再発しない方が報告されていました。乾癬でも、アダリムマブ(ヒュミラ)の休薬、減量が可能となった患者さんがあったとのことです。この点について、どうしたら止められるか、減らすことが可能か、さらなる研究が待たれます。
2.インフリキシマブ使用乾癬患者22例および切り替え5症例を含むウステキヌマブ使用患者10例の使用経験(JR札幌病院) JR札幌病院の主任医長である伊藤 圭先生が、学会の5番目に発表されました。全国的にも1,2の経験の多さです。小林皮膚科クリニックからも多くの患者さんが伊藤先生にお世話になっています。
3.皮膚科看護師の乾癬に対する認知度・意識調査(東京大学医学部附属病院看護部) 生物学的製剤の導入に伴い、以前のステロイド外用薬は光線療法を主体とした治療から、より効果のある治療を求めて皮膚科を受診する患者が増えるとともに、全国に乾癬患者の会が立ち上がり定期的な勉強会を開き、乾癬という疾患に対する認知度が高まってきている。病棟や外来で乾癬患者と接する機会多い看護師に対して、医師に遠慮して質問できないような内容について、患者から問われるケースが増えている。患者に対する十分な精神的支援を行なううえでも、皮膚科看護師が疾患、治療法(効果、副作用、通院頻度など)に加え、患者QoLの障害度に対する最低限度の知識を持っておくことが重要となる。
 東大病院の病棟、外来、連携するクリニックの看護師に対し、乾癬の認知度、意識調査をおこなった。認知度・意識ともにクリニックの看護師がもっとも高く、続いて東大外来、病棟看護師の順であった。病棟での仕事分担、多忙さ、各科のローテーションがスペシァリティを阻害しているものと思われた。医師との勉強会などを含めたコミュニケーションがより必要であると思われる、との結論でした。
4.尋常性乾癬患者である私自身の治療履歴と生物学的製剤の使用経験(筑波大学附属病院看護部、筑波大学) 20歳のとき頭から乾癬が発症し、3年後には全身に拡大し尋常性乾癬の診断を受けた。ステロイド軟膏、ボンアルファ軟膏、オキサロール軟膏の外用治療を続けたが徐々に悪化した。チガソン内服、PUVA療法でも改善なく、シクロスポリン内服で一時的にすべて乾癬が消失した。しかし、次第に効き目が悪くなり、血圧上昇、クレアチニン値が緩やかに上昇し始めた。昨年9月生物学的製剤の使用を決心し、アダリムマブ(ヒュミラ)の導入を開始した。開始当時PASIは11.6であったが、現在は0.8まで軽快している。
 乾癬があることにより、人との接触を主体に社会生活に大きな制限を感じながら、つねに「乾癬がなければ、乾癬がなければ」の思いが強く、乾癬があることで自分の人生のほとんどが振り回されてきた。しかし、ヒュミラでここまで改善し「人生が変わった」。こうして皆さんの前で自分の経験を話すことができるのも生物学的製剤のお蔭である。しかしながら、高額な治療費や今後の副作用の出現なども検討課題である、と発表されました。医療に携わる方からの貴重な発表で、大きな感動を参加者全員に与えました。多くの患者さんを集めた研究発表も大切ですが、個人の歴史・体験はより貴重であると考えさせられました。

生物学的製剤による副作用
ヒュミラ、レミケードによる肝機能障害
ヒュミラ注射部位に強い紅斑反応
レミケードにより掌蹠の皮疹が増悪
クローン病患者に生じたレミケードによる陰部乾癬
クローン病患者に生じたレミケードによる掌蹠膿疱症、乾癬、脱毛
レミケードによる多形紅斑型薬疹
レミケードによる扁平苔癬型薬疹
ヒュミラによる顔、足の紅斑型薬疹
ヒュミラで治療中に併用抗結核剤で薬疹
ヒュミラ治療中に1例の肺結核 治療前の検査で、X線検査、血液検査では問題なかったが、ツベルクリン反応が強陽性であったため、抗結核剤の併用を行ないながら、ヒュミラを開始した。しかし患者は医師の指示どおりに抗結核剤を内服していなかった。レミケード治療中に3例の間質性肺炎
レミケード治療中の2例に肺病変(咳とCT検査異常、胸の痛みとCT検査異常)
ヒュミラ治療中の1例に肺病変(血液検査異常≪クォンティフェロン、KL-6≫)
ステラーラ治療中に上気道感染症、好酸球性肺炎
レミケード治療により誘発された汎発性膿疱性乾癬

すでに昨年1月から使用可能となったレミケード、ヒュミラは、1,000名以上の乾癬患者さんに使われています。今のところ使用した患者さんすべてが調査対象となっており、その中の1名だけの結核ですので、危惧されたよりも少ない危険度と言ってよいと思います。しかしながら、はっきりと結核とは言えないものの、なにか変な肺病変が相次いでおり、今後もさらなる注意が必要と思われます。また生物学的製剤のガイドラインが変更になり、実施施設が今までの大病院から、一般クリニックまでと拡大されました。安易な使用に走るのではなく、ガイドラインの順守、未知の副作用への注意深い観察が求められます。

乾癬学会の終了後、今では恒例となった全国乾癬患者学習懇談会が、会長の川田先生のはからいにより、同じ学会会場内で開かれました。その内容については、日本乾癬患者連合会(http://derma.med.osaka-u.ac.jp/pso/JPA/)、大阪乾癬患者友の会(http://derma.med.osaka-u.ac.jp/pso/)に掲載されています。ご覧ください。会長の川田先生、そして群馬大学の安部先生のお話が集まられた100名以上の方たちに感銘を与えました。その後の全国から集まられた患者会のメンバー、相談医をされる先生方を交えた懇親会も、浪花の夜景を眺めながら素敵でした。この懇親会の中で、神奈川県には今年中に、そして岩手県にも近々乾癬患者会が発足する予定であることが報告されました。全国に仲間が増えています。
c0219616_19325858.jpg

[PR]
by kobayashi-skin-c | 2011-09-28 18:59 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
<< 2011年9月 秋の始まり 2011年8月 天空の高みへ。... >>