2012年9月25日教室 『psorias is more than skin deep,・・・・・』
かつて、米国の乾癬患者組織 National Psoriasis Foundation (NPF) の冊子に “Psoriasis is more than skin deep, (乾癬は皮膚の深さにとどまらない、)”と始まる言葉がかかげられており、その後ろには “leaves emotional scar. (心の傷を残す)” と書かれてありました。皮膚の外面だけではない、乾癬のつらさが適確に言い表された言葉です。
 いまふたたび“Psoriasis is more than skin deep, (乾癬は皮膚の深さにとどまらない、)”が強調されています。それは、乾癬の3割の方には関節炎の症状があり、乾癬患者さんの生涯で一度でも関節炎の症状が現れる率は7割に達すると見積もられています。さらに、乾癬とメタボリック症候群(メタボ)、さらには糖尿病、高脂血症、心血管系障害、またクローン病などの内臓疾患の合併率が高く、寿命にも影響を及ぼしていることが疫学調査から明らかにされてきたからです。
 7月に開かれた世界乾癬・関節炎会議の話題から、そして9月7,8日に開催される日本乾癬学会の話題から、“Psoriasis is more than skin deep, (乾癬は皮膚の深さにとどまらない、)” について皆さんと一緒に考えたいと思います。

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乾癬は皮膚だけにとどまらない。「乾癬」を中心として、上から時計まわりに「関節炎」、「メタボリック症候群」、「心臓・血管異常」、「糖尿病」、「うつ病」、「神経症」、「アルコール依存症」、「肥満」が関係することが図に示されている。世界会議の講演、発表の中でこれらのひとつひとつの危険性、注意点が報告された。印象的であった発表をいくつか紹介します。

c0219616_144758.jpg左:乾癬患者、右:正常人のPETスキャン画像。乾癬患者では脚の血管などが濃く染まっており、血管に炎症を生じていることを示す。動脈硬化、炎症を起こしやすく、心筋梗塞など重大な心臓・血管障害の元となる。






c0219616_14503499.jpg棒グラフの緑が正常人、オレンジが乾癬患者。すでに30代のころから「心臓・血管異常」が起きやすく、40代、50代では約2倍の頻度であることが示されている。








c0219616_1453129.jpg日本人ではあり得ないほどの肥満。スペイン・バルセロナの肥満治療病院の前のビーチで。








c0219616_14591682.jpgスペインの乾癬患者(左の円グラフ)と一般国民(右)の肥満度。青が正常(BMIが25未満)、赤が肥満傾向(BMIが25~30)、緑が肥満(BMIが30以上)。
BMIは、"body mass index"。国際的な肥満基準として用いられている。計算方法は、BMI=体重㌕÷身長㍍÷身長㍍。乾癬患者では正常体重が明らかに少なく、肥満者が多い。



c0219616_158149.jpgまた体重が重いほど、治療効果が減弱することも報告された。生物学的製剤治療の効果が不十分あるいは減弱する率は、肥満傾向のもので14%増、さらに肥満患者ではさらに14%も高まることが示された。



c0219616_15145931.jpg関節炎の頻度は高い。その症状には様々なものがあるが、手・足の指の関節に起こりやすく、そのほかに背骨、腰骨におこるタイプ、腱の付着部炎、指全体が腫れる指炎タイプがある。



c0219616_15183551.jpg乾癬患者の2-3割に関節炎が合併しているが、患者生涯期間中の関節炎発症率は7割に達すると推測されている。その中でわが国(Japan)の発症率が1%と際立って低いことが紹介された。小生はその理由について質問を受けたが、日本乾癬学会で行っている乾癬患者登録方法の不備による数字であり、実際はわが国でも関節炎の頻度は高いことを説明した。

c0219616_15235397.jpg新しい関節炎の分類に基づき、治療指針が示された。すべてのタイプに有効なのは、生物学的製剤の中の抗TNFα製剤である。






c0219616_1525543.jpg"Let's talk psoriasis"という企画があり、英国人の医療ジャーナリストが司会し、スウェーデンの患者と米国の皮膚科医(アラン・メンター博士)が受け答えするという、国際色豊かでユニークな試みがありました。鋭い質問に答えるメンター先生の適確かつ優しい態度が印象的でした。日本の学会でも試みたい企画である。



c0219616_15312844.jpg乾癬患者QOLの調査で、
約1割の患者は年間に約16日、仕事や学校を休まざるを得なかった。とくにかゆみが強い患者でその傾向がみられた。わが国の調査でも、かゆみの頻度が以前よりも増していると報告されているが、今回の報告では乾癬患者の85%にかゆみが症状があると指摘された。



c0219616_1537287.jpg乾癬患者QOL調査から、患者の1/3は「医師との関係」について、ネガティブな見方をしていることが分かった。期待どおりの治療の説明がない(36%)、だれも自分の乾癬の助けになりそうもない(35%)、医師はどの治療が効き、どれが効かないか知らないようだ(33%)、医師は乾癬の話題を避けたがる(32%)、医師は私の乾癬について真剣ではないようだ(30%)、医師はほんとうに私の乾癬を治す気があるのだろうか(28%)、医師に乾癬について相談することをためらってしまう(21%)。



c0219616_1545119.jpg抗IL-17療法については、前回の7月の教室で話したとおり、現在の生物学的製剤以上の効果が得られている。
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c0219616_15474766.jpgさらに新しい治療法として、細胞の中で情報伝達(シグナリング)に大切な物質であるJAK、PDE4を抑える治療薬(内服)が開発中であり、良い結果が得られていることが報告され、大きな期待が寄せられる。
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c0219616_1622580.jpg五日間の会議の間、ストックホルム市庁舎を使ってレセプションが開かれました。会長のエタップ氏による開会挨拶の場面です。この会場ではノーベル賞受賞者の公式記念晩餐会が開かれます。




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c0219616_16234737.jpg世界会議が終了して、IFPAメンバーによる「世界乾癬デー」の取組み会議、そしてWHO(世界保健機構)へのアピール活動協議が行われました。この中で、IFPAが推進する"Under the Spotlight"プロジェクトに、日本がぜひとも協力してほしいとの要請がありました。またWHOへのアピール活動においても、日本国外務省、厚生労働省の協力が不可欠であるとの要請があり、IFPAという国際協調の中で、日本の乾癬患者会も大きな役割を期待されていることを感じました。世界のみんなと手を携え、乾癬への克服に向かって、日本でも是が非にも頑張っていきたいと決意を新たにさせられました。この素晴らしい世界会議を企画・運営したIFPAの役員の皆さま、そして協力を惜しまなかったアラン・メンター先生をはじめとする医師・研究者の仲間たちに、心から感謝したいと思います。また世界的製薬企業の絶大なる支援にも感謝いたします。
下の写真は、PsorAsia(アジア連合)の面々(左から、マレーシア、フィリピン、ニュージーランド、インド、オーストラリア、米国、インドネシア、フィリピン、そして日本)


帰国後、"Under the Spotlight"への参加をお願いしたところ、東京地区乾癬患者友の会(P-PAT)の方が勇気を持って名乗りを上げてくださいました。日本乾癬患者連合会、P-PAT、そして日本アボット社の絶大な協力を得て、ビデオ映像が完成しました。世界乾癬デーの10月29日から、この映像は全世界で観ることができるようになっています。
http://www.underthespotlight.com をご覧になって下さい。
"Japan Masayuki"です。日本乾癬患者連合会HPからも簡単に観られるようになっています。
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by kobayashi-skin-c | 2012-11-14 14:56 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
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