2013年8月教室 『さらに進化する乾癬治療、そしてアトピー性皮膚炎への応用』
生物学的製剤の登場は乾癬治療に画期的な変化をもたらし、乾癬の患者さん、とりわけ乾癬性関節炎のために日常生活が困難であった患者さんにとって、大きな福音となっている。乾癬発症のメカニズムが明らかにされつつある現在、さらに新しい生物学的製剤が開発され、またさらに進化した内服薬も現在試されている。大きく変わりつつある乾癬治療薬について皆さんに紹介したいと思います。
 また、生物学的製剤はアトピー性皮膚炎の治療にも応用されようとしており、現在の最新情報をお知らせいたします。

乾癬の免疫学的発症メカニズムが明らかになるにつれて、サイトカインと呼ばれる免疫反応の制御タンパクをブロックする選択的標的療法=生物学的製剤治療が、次々と開発されるようになりました。昨年参加したスウェーデン・ストックホルム市での第3回世界乾癬・関節炎会議では、その最先端の薬剤の研究結果が発表され、その優れた効果に、正直びっくりしました。そしてそれらの薬剤のいくつかは、現在わが国においても臨床試験が進行中です。

乾癬の免疫学的発症メカニズム研究が、TipDC - Th17モデルに向かっていること、そしてその制御のキーとなるIL-18をブロックする生物学的製剤が登場したことを、2012年7月教室の抄録で紹介しました。参考にしてください。

さらに生物学的製剤ではない、選択的標的療法薬が登場し、早くもリウマチでは昨年12月から使用され始め、乾癬でも臨床研究が進められています。Tリンパ球のサイトカイン産生を、細胞内で制御する酵素「JAK」を抑制する薬剤で、トファシチニブ(商品名:ゼルヤンツ)です。
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海外の試験結果では、PASI 75達成率が67%に達していました。PASI 75とは、「乾癬がすごく良くなった」と表現されるような優れた効果です。新しい生物学的製剤の抗IL-18療法の80%には劣りますが、トファシチニブは内服する薬なので、病院で注射を受ける必要がなくなります。また生物学的製剤と違って、薬の製造に生きた細胞を使う必要がなく、大量生産も可能であることから、コスト面で大幅に便利になると期待されていました。

ところが、なんとトファシチニブ(商品名:ゼルヤンツ)は1錠が¥2,539!乾癬では1日に2~3錠が必要ですから、費用は1日¥5,078~7,617。これは現行の生物学的製剤(レミケード、ヒュミラ、ステラーラ)よりも高い値段になります。経済的な理由から生物学的製剤治療に踏み切れない方々も多いのが現状ですが、トファシチニブ(商品名:ゼルヤンツ)はその切り札となる薬剤ではありませんでした。

さらにトファシチニブ(商品名:ゼルヤンツ)で治療中のリウマチ患者さんに、リンパ腫が続けて出てきたことから、副作用なのかどうかより詳しい検討が必要となっています。

次にアトピー性皮膚炎への生物学的製剤治療の応用ですが、アトピー性皮膚炎の免疫学的発症メカニズムも近年ずいぶんと分るようになってきました。
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この中でキーとなるIL-4、IgEをピンポイントに抑える二つの薬剤が研究されています。

一つは、インターロイキン4受容体αサブユニット(IL-4Rα)に対する高親和性完全ヒト抗体であるdupilumabです。今年の米国皮膚科アカデミで報告され、dupilumabを150 mgまたは300 mg、4週間にわたって週に1回皮下投与した場合、局所外用薬でコントロール不十分な中等度から重度までのアトピー性皮膚炎(AD)患者の徴候および症状を有意に改善することが明らかになりました。

もう一つはすでに喘息治療薬として昨年11月から使われ始めたゾレア®皮下注用75mg(Xolair® for s.c. injection)オマリズマブ(遺伝子組換え)(Omalizumab)ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体です。
今のところ気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る) だけに保険適応となっていますが、アトピー性皮膚炎治療への応用が計画されています。しかしご多分にもれず高価すぎることがネックです。薬価は75mg 1瓶 35,642円で、成人では通常4~5瓶が必要となります。

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進化し続ける生物学的製剤治療ですが、ほとんどすべての生物学的製剤は欧米の巨大製薬メーカーで作られています。開発と製造には巨大な資本が必要であり、その回収のためにはたいへん高額とならざるを得ないのでしょう。優れた薬であるだけに、またそれによって救われる人が多いだけに、派生する格差、医療資源(国民医療費)枯渇も悩ましい問題です。みんなで大切に扱っていきましょう。
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by kobayashi-skin-c | 2013-08-28 10:39 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
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