2015年7月 『モンブランの頂き』 July 2015 "The Summit of Mont Blanc"
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2015年7月19日早朝。Amira、Matteoに別れを告げ、Christopheの車でChamonixに向かった。途中イタリア国内も横切った。

Chamonixを目前にしてChristopheが、「残念なニュースだ。Refuge de Gouterが閉鎖された。クラシックルートでの登頂はできない。行くとしたらvariation routeのAiguille du MidiからRefuge des Cosmiques。一泊して翌日一気に登頂、下山することは可能だ。しかし厳しいルートだ。どうするか?」と私たちに告げた。「私たちで可能か?」「もちろん可能だ」とChristopheが答えた。「よし行こう」。Christopheが携帯電話でまず今晩のRefuge des Cosmiqueをおさえ、Refuge Tete Rousseをキャンセルした。

賽は投げられたが、不安もある。予定よりも一日早くの登頂となる。Chamonixの町では、variation route用に60mのロープを新たに購入した。

7月19日14:30、ロープウェイでAiguille du Midi山頂駅へ。観光客の列からはなれ、立入り禁止の柵を乗り越えて氷河上に出る。クランポンを履き、ピッケルを手に、ロープを繋ぎ、ついに出発のとき。いくぶん緊張する。Col de Midiに向かって、細いスノーリッジを下った。
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Col de Midiの向こうの岩の上に目指すRefuge des Cosmiques(コスミック小屋)があった。
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ここで初めてvariation routeの概要が掴めた。
明日はRefuge de Cosmiques (3613m)からCol de Midi (3532m)に下り、まずMt Blanc du Tacul (4248m)に登る。Col Maudit (4035m)に少し下り、今度はMt Maudit (4465m)に登る。ふたたびCol de la Brenva (4303m)に下り、そして4810mのMont Blanc頂上へと一気に登る。帰路はまったく同じコースを下る。強いクライマーだと7-8時間で往復するとのこと。天気予報は晴れ、山頂の最高気温は0℃に達するとのこと。下山を早くするためには、1:00朝食、出発予定である。

7月20日深夜0:45に、同室の人たちに迷惑をかけないよう、静かに静かに起きるつもりでいたが、0:30ごろからほぼ全員ガサゴソと起きだして、出発の身支度を整え始めた。そう、同室者全員が1:00の朝食をとり、頂上に向かうのだ!Christopheも今日は遅れずに食堂に顔を現した。朝食時間は、1:00、5:00、7:00と決められている。その日の行動計画で時刻を選ぶのだろう。山小屋の人もきちんと時刻どおりに、朝食の準備をしてくれるが、パンとシリアル、ジャムに、チーズの簡単なもの。熱いコーヒー、紅茶は嬉しかった。
 すぐにハーネス、靴、クランポンを履き、トーチを灯し、忘れ物がないか確認をして、Refuge de Cosmiques (3613m)からCol de Midi (3532m)に下り始めた。20人ぐらいのトーチの灯りが点々と一列に並んでいる。そしてMt Blanc du Tacul (4248m)の雪壁へと取り付いた。とにかく足元しか見えない。ジグザグ、ジグザグに高度を上げる。途中鉄梯子が現れた。垂直に立つ鉄梯子は、今までなら、山歩きの中で一番緊張する場面だったのだが、このMont Blanc Programが始まってからと言うもの、もっとも安心感のあるルートとなった。クレバスが現れた。Christopheがしっかりロープで確保してくれる。

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何とかMt Blanc du Tacul (4248m)の脇を抜けてCol Maudit (4035m)に少し下り、今度はMt Maudit (4465m)へ。東の空が明るくなり、Mt Mauditへの急斜面を登るころ、行く手の氷壁がオレンジ色に染まった。
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まさに氷壁!ピッケルのピック部をガツンガツンと打ちつけ、クランポンの前爪をしっかりとキックインで氷壁面に蹴りこみ、体を引き上げて登る。先行のパーティーからは無数の氷片が降り注いでくる。上を向くと顔にもろに当たって痛い。ヘルメットで受け止めるようにする。

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大きなクレバスが現れ、先行パーティーで渋滞している。Christopheはあわてず、ゆっくりと時間をとって我々を確保するようにロープワークを行う。ここで、しかし、「彼が指示するロープのほどきかたが分からない!」。私の苦手とするロープワーク。Christopheが怒ったように降りてきて説明しようとしたところ、雪面に差してあったChristopheのピッケルがクレバスの中に落ちてしまった。一生懸命にChristopheはクレバスの中を覗き込むが、何度も何度も「Shit! Shit!」と繰り返すのみ。Christopheのピッケルが失われたことは、Mont Blanc登頂を諦めなくてはならないことを意味する。ここから下山するにしても極めて危ないこととなるだろう。「いったい、どうなるのだろう、Christopheはどんな決断をするのだろう」と思っていた矢先、我々の後続パーティーの一人が、予備のピッケルをChristopheに渡した。感謝感激である。そうして難所を登りきり、Mt Mauditを越えた。

しかし、しかし、しかし!いまや眼前に見えているはずのMont Blanc頂上は、まだまだ遠いではないか。ここから標高差500m。少し落胆。
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Mont Blancへの長い斜面を登り始めるころ、もう降りてきたパーティーもいた。昨晩の食事で一緒になったノルウェーの若者カップルだ。元気いっぱいに下っていった。Col de la Brenvaから山頂への登りは、やはり高度の影響か、かなり苦しかった。Christopheは、「苦しいときは、ロープで引っ張るから遠慮するな」と言ってくれたが、さすがに自分で頑張ろうと思った。
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傾斜が少しゆるくなった。Christopheが大きく手を広げて、「Congratulations!」と声をかけてくれた。いつの間にか斜面が平らになり、広々とした雪原のようになっていた。何の標識も立っていないが、ここがMont Blanc山頂。もう登らなくていい。衣子と抱き合った。Christopheと抱き合った。

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頂上は暖かく、30分以上眺望を楽しみ、登頂の感激に浸った。

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Refuge de Cosmiques(コスミック小屋)までとにかく命を失うことなく下山した。その間の記憶は少ない。

翌朝(7月21日)、ゆっくりとした気持ちでアルプスの夜明けを迎えた。
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グランド・ジョラス北壁が朝日でシルエットとなり美しい。Aiguille du Midiが朝日に照らされた。
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朝食の後、コスミック小屋を出発しAiguille du Midiのロープウェイ山頂駅へと戻った。昨日登ったルートの全貌を見渡すことができた。また来ることはあるだろうか、さようならモンブラン。
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by kobayashi-skin-c | 2015-09-02 19:04 | PHOTO & ESSAY | Comments(0)
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