カテゴリ:「皮膚の健康教室」抄録( 59 )
2010年8月24日教室 『乾癬の最新情報 -2010年乾癬国際会議(パリ)から-』
2010年7月1日-3日パリにおいて、Psoriasis 2010 Congress of The Psoriasis International Networkが開催されました。そして7月4日、5日にはIFPA(International Federation of Psoriasis Associations 乾癬患者組織国際連盟)年次総会があり、両者に出席してまいりました。この国際会議は第3回目を迎えますが、乾癬の実地診療に役立つ知識の交換を主な目的としており、最新の治療法の紹介ばかりではなく、古くからの治療を見直し工夫すること、長期間にわたる治療による副作用の喚起、また乾癬患者のQOLについても広く討議されました。わが国の乾癬の実情について、Psoriasis International Networkの一員でもある旭川医科大学教授、飯塚 一先生が講師として講演されました。
 いくつかの話題を紹介いたしましょう。特徴としては、何と言ってもBiologics(生物学的製剤)治療の講演、発表が圧倒的に多かったことです。展示コーナーでもBiologicsを開発した製薬メーカーのブースの数々が目を引いていました。とくに昨年ヨーロッパ、アメリカで相次いで発売開始となった抗IL12/23(p40)ヒト型モノクロナール抗体;ustekinumab(商品名:Stelara、ステラーラ)のブースにはいつも人があふれていました。
 現在分かっている乾癬発症メカニズムの根元部分と考えられているIL23を抑制するステラーラは、3か月に1回の皮下注射で中等症~重症の乾癬に対し高い有効性が実証されました。ヨーロッパ・アメリカの開発試験では(PHOENIX 1, PHOENIX 2)、その有効率はPASI 75(全身の乾癬がほとんどなくなる)で80%でした。また76週(PHOENIX 1)、52週(PHOENIX 2)の試験期間中、重症の副作用はほとんど起こりませんでした。またアメリカでの試験では、先発のBiologicsである抗TNF製剤;etanercept(商品名:エンブレル)よりも明らかに優れていることも証明されました。
 ステラーラの開発試験はわが国でもすでに終了しており、その結果が今回の会議の中で日本の開発研究班を代表してNTT病院関東の五十嵐敦之先生、慈恵医科大学の中川秀巳先生によって報告されました。早期の審査・承認が期待されます。
 さらに新しいIL12/23(p40)ヒト型モノクロナール抗体;briakinumabも開発され、その臨床試験結果がアメリカから報告されていました。ステラーラ同様、優れた効果と高い安全性が述べられていました。ただ小生の疑問として、治療がたいへん難しい中等症~重症の乾癬にたいし、これほど優れた効果をBiologicsが発揮するからには、全身においてかなりの免疫抑制状態が作られていることは間違いないと思います。臨床試験期間中における副作用はみられませんでしたが、やはり長期にわたる乾癬治療の中では、免疫抑制状態に伴う副作用の懸念がぬぐいきれません。ステラーラでは3カ月に1回の注射です。その3ヶ月間の間、たった90ミリグラムの薬液ですが、体の中にとどまり乾癬を抑える=免疫抑制状態を保つことになります。副作用が生じたときに、後戻りできない、その怖さを感じます。いっぽうで、先発のBiologicsはアメリカ・ヨーロッパでは発売されてすでに5年以上が経過しており、とくにエンブレルでは副作用がほとんど生じておらず、安全な乾癬治療薬として認められつつあるようです。
 Biologics治療で避けて通ることができない問題が、治療費です。ドイツから経済的観点からの研究報告もありました。入院して治療すると格段に経済的負担が増すこと、乾癬の治療には外来治療が基本であること、Biologics治療の費用は入院で30,199.7€、外来で11,600.85€にも及んでしまうことが述べられていました。各国の保険事情により患者さんの自己負担金の額に差があるでしょうが、どこの国おいてもBiologicsは高額です。次々に登場する新しいBiologicsが価格競争で安くなる、ということはあまり期待できません。医療・福祉行政(政治家)を私たちの手で・声で変えていかなくてはなりません。IFPA(International Federation of Psoriasis Associations 乾癬患者組織国際連盟)年次総会はそんな期待の中で始まりました。
 IFPAの役割は、“-Worldwide unity for people living with psoriasis(乾癬患者を世界で結ぶ)-”
•お互いの知恵と理想を寄せ合い、乾癬患者の治療改善を目指すこと。
•世界各国で乾癬患者がお互いに助けあることができるよう、各国の乾癬患者組織作りに協力すること。
•乾癬患者、医師、研究者が一緒になって繰り広げる国際的な学会の手助けをすること。
•乾癬患者、医師、研究者の緊密な連携を促進するよう国際的フォーラムで意思表明。
そして、主要な活動の一つとしてWorld Psoriasis Day October 29(世界乾癬デー 10月29日)のデモンストレーションを世界中で行うことがあります。世界乾癬デーは世界保健機構(WHO)で承認された日付です。今年の世界乾癬デーのテーマは「Childhood Psoriasis –Challenge for all- (子供の乾癬 -みんなのチャレンジ)」(図を参照)。今年の世界乾癬デーでは、
•乾癬は子供時代にも発症することを知ってほしい
•子供の乾癬は家族全員へのチャレンジ
•子供の乾癬の治療法開発を進めてほしい
•I can do anything with psoriasis; it won’t me back(乾癬があってもへっちゃらよ、何も気後れすることないわ)と子供が言えるようなサポートを
•学校、友達、両親・家族、医療従事者、政治家、市民などさまざまなレベルでの乾癬の理解を深めること
などを行うことが確認されました。また乾癬を持つ子供たち自身が、みずからの体験、心情を絵に表し、その絵を公表したいとしています。すべてのIFPA加盟国でその絵を公募します。優秀作品には素敵なプレゼントも用意されるそうです(アイスランドにある乾癬治療温泉ブルー・ラグーンに無料招待)。
 また全世界に影響力を持つ世界保健機構(WHO)に対し、さらなる乾癬の理解を求め、乾癬の克服へ向けた活動、研究が世界規模のものとなるよう働きかけを進めることが確認されました。
 5日間の国際会議、IFPA総会はたいへん充実した内容で、細かくその内容をこの場ですべてお伝えできません。私の毎日の診療の中で、少しでも皆さまの治療に役立てていきたいと思います。また日本の乾癬患者会の絆がさらに深まり、そして世界の患者組織と歩みをともに進めていくことができるよう、私も微力ながらお手伝いしたい、との気持ちを深めた体験でした。パリ滞在の7日間はお天気にも恵まれ、夏のヨーロッパの長い昼間の時間を使い、パリの街中をカメラ片手に存分に歩いてきました。その写真をブログの「PHOTO & ESSAY」に掲載しています。ご覧ください。
 たいへん残念なことに、あろうことか、散歩中「ワールドカップすり」の被害にあい、小型カメラを盗まれてしまいました。会議・IFPA総会の模様、ポスター発表の内容などを数多く撮影した後の盗難であったため、ほんとうに残念でなりません。ワールドカップ開催中のその時、その賊は「ジャポネーゼ、ナカムーラ」と話しかけながら、散歩する私の周りでサッカーのドリブルのまね、そしてタックルのまねをしながら私にまとわりついたのでした。私はなんの危険を感じることもないまま、「チャオ!」と笑顔で言い残した若い彼をみおくりましたが、ふと気がついたときワイシャツの胸ポケットにしまっていた小型カメラは無くなっていました。皆さんもお気を付けください。

今年のWorld Psoriasis Day(世界乾癬デー 10月29日)のテーマ
(乾癬のTeddy Bear坊や)
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by kobayashi-skin-c | 2010-08-25 12:04 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
2010年7月27日教室『トスカーナの休日』
『トスカーナの休日』

2010年5月、イタリア中部のトスカーナを旅しました。その旅行記を写真とともにお伝えします。
トスカーナの魅力は、連なる丘陵に広がる豊かな大地、美しい町々と芸術・文化、そして人を楽しませるワインと食事。その歴史は、紀元前8世紀ごろからエルトリア人が定住を始め、ローマ帝国領へとなる。ローマから北へ伸びるカッシア街道沿いの町として発展を始め、今でもローマ遺跡が数多く残る。ローマの庇護のもと交易で発展を遂げた町はやがて自治都市として独立し始め、海洋都市として十字軍を率いたピサが1081年にイタリアで最初の自治都市宣言(コムーネ)を行なった。そしてトスカーナの町々は次々に自治都市を名乗り、まさに群雄割拠の場所となった。アレッツォ、コルトーナ、サンジミニャーノ、シエナ、フィレンツェ、モンタルチーノ、ピエンツァ、ルッカなどの町々である。
しかし、やがてこれらの町々は互いの利益のため争いを繰り返すようになる。ことにフィレンツェとシエナの争いは、当時ヨーロッパを二分していたローマ教皇派と皇帝派の争いも絡んで複雑なものとなり、他の町々を巻き込みながら、壮絶な戦いは400年にも及んだ。同時に、この二つの町には独自の文化が花開き、文化的にもその美しさを競い合った。15世紀以降フィレンツェの町で台頭した商人組織、なかでもメディチ家が豊富な財力で実権を握り、他の町々を征服し、長年のライバルであったシエナを1555年に陥落させ、シエナ最後の砦となっていたモンタルチーノを1559年に陥落させた。そしてそれ以降メディチ家の庇護のもと、芸術復興(ルネッサンス)がフィレンツェの町に花開いた。
 町を巡りながら、歴史に思いをはせ、そしてワインに酔いしれた7日間の旅だった。写真を数葉ブログ内の『photo & essay』に掲載しました。

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by kobayashi-skin-c | 2010-07-27 18:44 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
2010年6月22日教室『アトピー性皮膚炎の原因と治療』
日頃の診察室での会話の中で、「アトピー性皮膚炎ですね」、「アトピーでしょう」とお話しすると、たいへんがっかりされ「本当ですか、アトピーですか、・・・・。・・・・、そしたら食べ物も制限しなくてはならないんですか」とお答えになる方がかなり多くいらっしゃいます。とくに、お子様の診察を終え、お母さまに説明した場面で交わされる会話の中で多く聞かれます。

アトピー性皮膚炎はけっして特別な病気ではないこと、ことに乳幼児では5人に一人は皮膚のトラブルがあり、そのうちの2人に一人は親兄弟にやはり皮膚が弱い人がいたり、鼻炎・花粉症の人がおり、アトピー性皮膚炎と診断されること、強い食物アレルギーを起こすお子様はきわめてまれで、検査でアレルギーがみつかったからと言って、必ずしもアトピー性皮膚炎の原因とは言えないこと、むしろお部屋の乾燥、入浴のし過ぎ・洗い過ぎ、過度の清潔志向が原因となっていること、またメンタルな部分が大きいこと、などをお伝えしています。

アトピー性皮膚炎の治療で一番難しいのは、「先が見えないのに、続けなければならない」こと。このことからお薬の副作用の懸念、治療に対する不信感がふくらんでいきます。アトピー性皮膚炎の原因は単一ではなく、また皮膚の症状からくる精神、身体、社会生活への影響もさまざまであることから、治療は患者さんの皮膚だけではなく、患者さんをとりまくバックグランドにも目を向けなければなりません。なかなか統合的な治療は難しいものですが、患者さんご自身がご自分のアトピーの分析をされながら、コントロールする力を養われることが大切かと思います。そこに「先の明かりが見える」はずです。健康教室ではみんなで考えてみましょう。

この数年間でアトピー性皮膚炎の考え方が変わってきています。ことに大きな変化は次の研究論文から始まりました。
Nat Genet. 2006 Apr;38(4):399-400. Common loss-of-function variants of the epidermal barrier protein filaggrin are a major predisposing factor for atopic dermatitis.
(皮膚バリアー蛋白Filaggrinの主要な機能喪失型変異がアトピー性皮膚炎の発症危険因子となる ⇒皮膚バリアー機能とアレルギー疾患の関連を示唆する新たな遺伝子の発見)という論文で、その要点は、
アトピー性皮膚炎はアレルギー疾患でありながら、本来の免疫アレルギー的な機序のみならず皮膚のバリアー機能の破綻が発症に重要であることが指摘されているが、今回そのバリアー機能に関わる新たな遺伝子がアトピー性皮膚炎の発症に関与していることが報告された。その遺伝子とはFilaggrin蛋白をコードするFLG遺伝子である。Filaggrinは皮膚の角層形成に重要な蛋白であり、FLGの変異(R501Xと2282del4)により尋常性魚鱗癬(ichthyosis vulgaris)が発症することが報告されたが、本研究では、この変異がアトピー性皮膚炎の発症とも関連していることを示した。この変異はヨーロッパの人々の9%に存在する。さらに興味深いことに、本遺伝子変異と喘息との関連をみると、アトピー性皮膚炎を合併している喘息においてのみ有意な関連がみられた。アトピー性皮膚炎を合併する喘息患者においては、皮膚を介したアレルゲン感作が重要であることが示唆される。
難しい内容ですが、生来(遺伝的に)皮膚のバリア機能が悪いため(乾燥肌を起こしやすい)、ダニやハウスダストなどアレルギー抗原(物質)が皮膚の中に入り込みやすくなり、アレルギーの症状の発端となってしまう、ということです。皮膚のバリア機能は、皮膚の一番表面にある角質層が正常に働くことによって保たれていますが、遺伝的に角質層の成分に欠陥があると、皮膚には重大な障害が起こってしまいます。その障害の種類には様々なものがあり、原因となる遺伝子の変化も次々にみつかり、アトピー性皮膚炎もその一つとして考えられるようになったのです。


さらに、アトピー性皮膚炎の原因について、外因性、内因性の違いなども言われており、アトピー性皮膚炎はひとくくりの病気ではなく、いくつかのタイプ、原因があると考えられるようになりました。アトピー性皮膚炎の正確な診断、そして的確なタイプ分けを行ったうえで、それに最適な治療を選ぶ、そんな時代をむかえつつあります。
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by kobayashi-skin-c | 2010-06-26 14:22 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
2010年5月25日教室『素敵な女性は肌を焼かない!?』
「素敵な女性は肌を焼かない」は、現京都大学皮膚科教授の宮地良樹先生が紫外線の害をまとめられた本の題名としたもので、たいへん的を得たキャッチコピーです。以前には「小麦色の肌」がもてはやされたり、「日焼けサロン(ひさろ)」が人気を集めたものです。もっと前には「黒んぼ大会」なるものもありました。しかし、多くの皮膚のトラブル、ことに女性にとって悩ましいシミ、そばかす、小じわなどの原因として、紫外線が大きく関わっていることが明らかになってきました。また皮膚がんの多くにも紫外線が関与しています。過度の日光浴、露出は禁物でしょう。ただいたずらに怖がる必要もありません。骨の形成のために必須のビタミンDは、紫外線の働きを受けて皮膚で作られるからです。季節、場所、機会に合わせて紫外線からの防御を柔軟にすることが大切です。

小林皮膚科クリニックでは、紫外線から肌を守る知識をまとめたパンフレット、また敏感肌をお持ちの方へのサンスクリーン剤(日焼け止めクリーム)のサンプルなどをそろえておりますので、ご相談ください。
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by kobayashi-skin-c | 2010-05-26 10:16 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
2010年4月27日教室『ここがポイント、4月から始まる医療制度改革』
「崖っぷちの日本の医療を救う」と名うったマニフェストで始まった医療制度改革ですが、最近決定された診療報酬改定では0.19%増だけにとどまり、20%増をうたっていた鳩山総理の約束はまったく実現されませんでした。とにもかくにも、この数字の中でやりくりする以外にはありませんが、この改革によってどうみなさまの日頃の医療が変わるのか、そのポイントについて解説します。
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by kobayashi-skin-c | 2010-05-12 16:35 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
2010年2月23日教室 『新しい乾癬の治療薬、生物製剤の使い方』
バイオロジックス(生物学的製剤)

 2010年1月、新しい乾癬の治療薬が登場しました。すでにお聞きの方も多いかと思いますが、2009年、全国の患者会有志が、この薬を必要とする方たちに一刻でも早く使っていただくことができるよう、厚生労働省に迅速審査の要望書の提出・署名活動を行い、早期の承認が実現したものです。皆さんがこのバイオロジックス(生物学的製剤)をより理解していただけるよう、その効果、副作用などについて、ご説明したいと思います。

バイオロジックスとは
 これらの薬が、生きた細胞(動物、植物、細菌、真菌を含む)で作られることから、バイオロジックス(生物学的製剤)と呼ばれています。今に限ったことではなく、北里柴三郎先生が破傷風やジフテリアの治療薬として開発したワクチンは、当時ウマを使って作られましたが、これも立派なバイオロジックスなのです。
ステロイドにしろ、ビタミンDにしろ、大半の薬剤は工場の機械の中で合成されて作られています。これら大量生産可能な薬と違って、今作られているバイオロジックスは細胞というたいへん、たいへん小さな生き物の中で作られることから、作られる量が少ない割に膨大な手間とコストがかかります。
その工場となる生きた細胞は、抗体と呼ばれるタンパクを作るためだけに特化したもので、一つの抗原(タンパク、ペプチド)だけに対して、一つの抗体だけを作らせることができます。この作られた抗体をモノクローナル(単クローン)抗体と呼びます。現在のバイオロジックスのほとんどが、このモノクローナル抗体です。何の抗原(タンパク、ペプチド)を標的にして無力化させるのか、その目的によってさまざまなモノクローナル抗体の創薬が可能です。最近ではがん細胞が持つタンパクを狙ったバイオロジックスも作られています。

乾癬の病気メカニズム、そして、そのピンポイント治療
 乾癬が起こるメカニズムが近年の研究で急速に進み、免疫の異常な働きが明らかにされてきました。とくに、免疫の主役となるT細胞にその元があることが、図1のように分かってきました。そのT細胞の働きを調節する分子(タンパク)、T細胞が出す免疫作用物質(サイトカイン)をピンポイントで無力化させると、理論・実験的には乾癬が治ることになります。ピンポイント攻撃を可能とするのが、バイオロジックス=モノクローナル抗体です。バイオロジックスは、選択的標的療法とも呼ばれています。乾癬の病気メカニズムの研究で分かってきたいろいろな分子(タンパク)やサイトカインをその標的として、図2、表1のようにバイオロジックスが作られてきました。
 その中でとくに良い効果を発揮したのが、TNFαというサイトカインを無力化させるバイオロジックスでした。現在、厚生労働省で審査中のInfliximab(インフリキシマブ、商品名:レミケード)、Adalimumab(アダリムマブ、商品名:ヒュミラ)です。そしてもう一つ、熱い注目を浴びているのが、T細胞の中でもTH17と呼ばれる細胞の働きを抑えるUstekinumab(抗IL-12/23 p40モノクローナル抗体)です。現在わが国でも開発試験中です。この三つのバイオロジックスの特徴を表2にまとめます。

Infliximab(インフリキシマブ、商品名:レミケード)
 インフリキシマブ、商品名:レミケードは、TNFαを無力化させるために作られたモノクローナル抗体です。この抗体はマウス(ネズミ)の細胞を工場として作られています。ただし、ネズミの抗体をそのままヒトに注射すると拒絶反応を起こしますので、TNFαを無力化させる部分はそのままですが、その他の部分はヒト型のタンパクに置き換えられています。それでも、一部にネズミのタンパク部分があるので、弱い拒絶反応が起こる場合があります(点滴注射中の発熱、吐き気など)。また長く使っているとヒトの体の中に中和抗体が生じ、抵抗性となってしまいます。
 点滴注射で最初の2回は2週おきに、それ以降は2ヶ月に1回の注射を続けます。PASI 75という効果指標(注釈を参考)で、73~82%という高い効力を発揮します。わが国では、関節リウマチ、クローン病で使われています。

Adalimumab(アダリムマブ、商品名:ヒュミラ)
 アダリムマブ、商品名:ヒュミラは、TNFαを無力化させるために作られたモノクローナル抗体です。この抗体はヒトの細胞を工場として作られているので、拒絶反応はなく、また皮下注射できますので、自宅での治療が可能です。ヒトの細胞を工場として作られたヒトのモノクローナル抗体であることから、インフリキシマブよりも若干効果が劣ります(PASI 75は、53~80%)。
 専用の注射器で2週間に1回、皮下注射を続けます。2008年から関節リウマチの患者さんに使われています。

Ustekinumab(抗IL-12/23 p40モノクローナル抗体)
 乾癬の病気メカニズムの観点から、いま一番注目されているバイオロジックスです。最近行われた開発試験では、優れた効果と、高い忍容性(副作用が少ないこと)が確認されました。わが国での開発試験は現在進行形で、認可までにはあと数年は要するでしょう。
 ヒト型のモノクローナル抗体であり、2~6ヶ月に1回の皮下注射でよいと言われています。

バイオロジックスの副作用
 バイオロジックスは、乾癬病気メカニズムに即したピンポイント攻撃可能な治療法ですが、乾癬の病気の部分だけではなく、体全体の免疫力にも影響を与えます。いちばん懸念されるのが、免疫力低下よる感染症です。インフリキシマブを使っていたリウマチ患者さんで、約3%の頻度で重症感染症が起こっています。肺炎、カリニー性肺炎、結核などです。とくにわが国では、結核を潜在的に持っている人が多いため、バイオロジックス治療前にはツベルクリン検査を含め、注意をすることが大切です。
 また、予測もしていなかった副作用が生じていることも事実です。関節リウマチ、クローン病患者さんのバイオロジックス治療中に、乾癬、掌蹠膿疱症(限局性膿疱性乾癬)が生じた症例が報告されています。そのほかにも、心臓(うっ血性心不全)、脳細胞への影響(脱髄性疾患、多発性硬化症など)も指摘されています。
 バイオロジックスはまったく新しい治療法であり、免疫反応の全容もまだまだ分かっていない部分が多いことから、今までの知識で予想できない副作用が生じることがあるのです。バイオロジックスを始めるに当たっては、治療を受ける患者さんも、また治療を行う私たちも、細心の注意と緻密な検討が必要と思われます。

バイオロジックスのコスト
 バイオロジックスを作るには膨大な手間とコストがかかっているため、治療の際の費用も大きなものです。症状・体重により若干の差はありますが、一年間で約200万円(詳細は表を参照)がかかります。乾癬の病気の性質上、症状を抑えるために治療は長期にわたります。この費用上の問題点をいかに克服するか、みんなの知恵が必要です。乾癬のつらさに分け隔てはありません。治療に分け隔てが生じることがないよう、みんなで考えましょう。

注釈
PASI 75とは、Psoriasis Area Severity Index 75%改善、のことを表します。PASIスコアが治療以前の75%以下になることを指し、寛解に近い状態を得ることと言ってよいでしょう。

図・表付きのパンフがクリニックに準備されています。ご希望の方はクリニックでお申し出ください。
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by kobayashi-skin-c | 2010-02-26 19:00 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
2010年1月26日教室 抄録 『これからの医療 -民主党政権になって変わること-』
 2009年のキーワードは、「政権交代」でした。8月に行われた衆議院選挙で、わが国で初めてといわれる「民意による政権の交代」が成し遂げられました。マニフェスト政治を旗印に選挙を勝ち抜いた民主党ですが、わが国を覆っている財政不況が、理想の実現を困難にしており、さらには鳩山総理大臣自身の献金問題から政治基盤を弱めており、今後の連立政権の維持さえも危うい気配が感じられます。
 わが国の医療は、世界随一とも言えるレベル、国民の高い満足度を保っていましたが、相次ぐ医療費の削減、ことに小泉内閣以来の政策により「崩壊寸前」とまで言われるようになってしまいました。救急病院での搬送拒否、産科・小児科医師の激減、病院・病棟の閉鎖などが地方のみならず、大都市でも進行しています。この「崖っぷちの日本の医療を救う」と名うった民主党のマニフェストでしたが、最近決定された診療報酬改定では0.19%増だけにとどまり、20%増をうたっていた鳩山総理の約束はまったく実現されませんでした。とにもかくにも、これからの2年間はこの数字の中でやりくりする以外にはありませんが、日本の医療の未来は、民主党政権下でも明るくないようです。
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by kobayashi-skin-c | 2010-01-29 13:42 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
2009年12月22日教室 『アトピーでお悩みの方に、-脱ステロイド、脱軟膏ってどういうことなの?-』
 アトピー性皮膚炎の治療は長期にわたることが多く、使用している薬の副作用も大きな気懸かりとなります。アトピーの症状をもっとも適確に、すばやく改善するのはステロイド外用剤です。しかし長年使い続けることによって、皮膚が薄くなってしまい、かえって刺激症状を起こしやすくなり、痒みに対して敏感になってしまうこともしばしばです。このステロイド外用剤の副作用が社会問題となり、なんとかステロイド外用剤から抜け出すことはできないか、さまざまな工夫がなされています。脱ステロイドです。また最近ではステロイドではない保湿剤・ワセリンなどの外用も、自分自身の皮膚の保護力を弱めるので、いっさいの外用をしない方が良い、といった考え方も出てきています。
 どの方法が良いのか、模範解答はありませんが、その人その人の皮膚症状に、またライフスタイルに、そして考え方に合ったものを選ぶのが最良の道と言えるでしょう。成人型アトピーの方達がもつお悩みについて語り合いましょう。
 脱ステロイド、脱軟膏・脱保湿といわれる治療法は、「成人型アトピー性皮膚炎とは、ステロイド依存性皮膚症(皮膚が外用ステロイドなしには普通に機能しない状態)を合併するアトピー性皮膚炎で、その9割の患者は保湿環境に適応した皮膚の状態である保湿剤依存症(MD)を伴う。従って、ステロイド外用剤の副作用を伴ったアトピー性皮膚炎であり、ステロイド外用剤を中止しない限り本症からの離脱はあり得ない」といった考え方、あるいは「汗、垢、皮脂が自然の保護膜であり、保湿をすることで正常な保湿機能を喪失し、かえって自然の回復力を弱めるので、過度な保湿治療は避けるべきである」との考え方から始まった「アトピー性皮膚炎の治療法の一つ」です。しかしながら、これらの意見は偏った見方だと思います。アトピーにおける皮膚バリア機能の低下、あるいは遺伝子レベルで天然保湿成分のフィラグリン産生低下は明らかな事実であり、すべてのアトピー患者さんで、現在の保湿ケアが否定されるものではありません。むしろ冬季の乾燥した時期には、積極的な保湿ケアは推奨されるべきと思います。
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by kobayashi-skin-c | 2009-12-25 14:53 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
2009年11月24日『アトピーでお悩みの方に、最新の治療から 
 成人型アトピー性皮膚炎の治療として、昨年10月からネオーラル(シクロスポリン)内服治療が保険適応となり、重症症状に悩まされている方々の症状改善に大きな役割を果たしつつあります。ネオーラルは免疫抑制作用を持つ薬剤で、本来は臓器移植手術後の拒否反応を抑える目的で使われていましたが、最近ではさまざまな免疫の異常にかかわる病気にも使われるようになっています。
 このネオーラルの内服の際には、副作用予防のため注意も必要です。どのようなときに、ネオーラル内服治療が役立つのか、どんな注意が必要なのか、皆さんと一緒に勉強したいと思います。
【ネオーラル治療の対象となるアトピー性皮膚炎】
・16歳以上のアトピー性皮膚炎の患者さんで
・これまでの治療で十分な効果が得られず、
・強い炎症を伴う湿疹が広範囲にある患者さんに使用されます。
【ネオーラルの服用方法、服用量】
・通常1日量を2回に分けて、朝、夕に服用します。
・服用量は患者さんの湿疹の症状、体重によって異なります。1日3mgx体重(kg)が目安です。
【ネオーラルの服用期間】
・湿疹が悪化している時期に、一時的に服用します。
・改善されればネオーラルを中止し、外用薬を中心とした治療を行います。
・長期間継続して服用するお薬ではありません。
・最長でも3ヶ月間服用したら、いったんは中止します。
(NOVARTIS発行「大人のアトピー性皮膚炎の適切なケア」川島 眞先生著から引用)
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by kobayashi-skin-c | 2009-12-03 08:06 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)