2010年6月22日教室『アトピー性皮膚炎の原因と治療』
日頃の診察室での会話の中で、「アトピー性皮膚炎ですね」、「アトピーでしょう」とお話しすると、たいへんがっかりされ「本当ですか、アトピーですか、・・・・。・・・・、そしたら食べ物も制限しなくてはならないんですか」とお答えになる方がかなり多くいらっしゃいます。とくに、お子様の診察を終え、お母さまに説明した場面で交わされる会話の中で多く聞かれます。

アトピー性皮膚炎はけっして特別な病気ではないこと、ことに乳幼児では5人に一人は皮膚のトラブルがあり、そのうちの2人に一人は親兄弟にやはり皮膚が弱い人がいたり、鼻炎・花粉症の人がおり、アトピー性皮膚炎と診断されること、強い食物アレルギーを起こすお子様はきわめてまれで、検査でアレルギーがみつかったからと言って、必ずしもアトピー性皮膚炎の原因とは言えないこと、むしろお部屋の乾燥、入浴のし過ぎ・洗い過ぎ、過度の清潔志向が原因となっていること、またメンタルな部分が大きいこと、などをお伝えしています。

アトピー性皮膚炎の治療で一番難しいのは、「先が見えないのに、続けなければならない」こと。このことからお薬の副作用の懸念、治療に対する不信感がふくらんでいきます。アトピー性皮膚炎の原因は単一ではなく、また皮膚の症状からくる精神、身体、社会生活への影響もさまざまであることから、治療は患者さんの皮膚だけではなく、患者さんをとりまくバックグランドにも目を向けなければなりません。なかなか統合的な治療は難しいものですが、患者さんご自身がご自分のアトピーの分析をされながら、コントロールする力を養われることが大切かと思います。そこに「先の明かりが見える」はずです。健康教室ではみんなで考えてみましょう。

この数年間でアトピー性皮膚炎の考え方が変わってきています。ことに大きな変化は次の研究論文から始まりました。
Nat Genet. 2006 Apr;38(4):399-400. Common loss-of-function variants of the epidermal barrier protein filaggrin are a major predisposing factor for atopic dermatitis.
(皮膚バリアー蛋白Filaggrinの主要な機能喪失型変異がアトピー性皮膚炎の発症危険因子となる ⇒皮膚バリアー機能とアレルギー疾患の関連を示唆する新たな遺伝子の発見)という論文で、その要点は、
アトピー性皮膚炎はアレルギー疾患でありながら、本来の免疫アレルギー的な機序のみならず皮膚のバリアー機能の破綻が発症に重要であることが指摘されているが、今回そのバリアー機能に関わる新たな遺伝子がアトピー性皮膚炎の発症に関与していることが報告された。その遺伝子とはFilaggrin蛋白をコードするFLG遺伝子である。Filaggrinは皮膚の角層形成に重要な蛋白であり、FLGの変異(R501Xと2282del4)により尋常性魚鱗癬(ichthyosis vulgaris)が発症することが報告されたが、本研究では、この変異がアトピー性皮膚炎の発症とも関連していることを示した。この変異はヨーロッパの人々の9%に存在する。さらに興味深いことに、本遺伝子変異と喘息との関連をみると、アトピー性皮膚炎を合併している喘息においてのみ有意な関連がみられた。アトピー性皮膚炎を合併する喘息患者においては、皮膚を介したアレルゲン感作が重要であることが示唆される。
難しい内容ですが、生来(遺伝的に)皮膚のバリア機能が悪いため(乾燥肌を起こしやすい)、ダニやハウスダストなどアレルギー抗原(物質)が皮膚の中に入り込みやすくなり、アレルギーの症状の発端となってしまう、ということです。皮膚のバリア機能は、皮膚の一番表面にある角質層が正常に働くことによって保たれていますが、遺伝的に角質層の成分に欠陥があると、皮膚には重大な障害が起こってしまいます。その障害の種類には様々なものがあり、原因となる遺伝子の変化も次々にみつかり、アトピー性皮膚炎もその一つとして考えられるようになったのです。


さらに、アトピー性皮膚炎の原因について、外因性、内因性の違いなども言われており、アトピー性皮膚炎はひとくくりの病気ではなく、いくつかのタイプ、原因があると考えられるようになりました。アトピー性皮膚炎の正確な診断、そして的確なタイプ分けを行ったうえで、それに最適な治療を選ぶ、そんな時代をむかえつつあります。
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# by kobayashi-skin-c | 2010-06-26 14:22 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
2010年 冬から春へ 北大キャンパス
農学部時計塔 冬
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 春
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ポプラ並木 冬
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 春
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古河記念講堂 冬
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 春
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中央ローン 冬
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 春
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# by kobayashi-skin-c | 2010-05-26 10:39 | PHOTO & ESSAY | Comments(0)
2010年5月25日教室『素敵な女性は肌を焼かない!?』
「素敵な女性は肌を焼かない」は、現京都大学皮膚科教授の宮地良樹先生が紫外線の害をまとめられた本の題名としたもので、たいへん的を得たキャッチコピーです。以前には「小麦色の肌」がもてはやされたり、「日焼けサロン(ひさろ)」が人気を集めたものです。もっと前には「黒んぼ大会」なるものもありました。しかし、多くの皮膚のトラブル、ことに女性にとって悩ましいシミ、そばかす、小じわなどの原因として、紫外線が大きく関わっていることが明らかになってきました。また皮膚がんの多くにも紫外線が関与しています。過度の日光浴、露出は禁物でしょう。ただいたずらに怖がる必要もありません。骨の形成のために必須のビタミンDは、紫外線の働きを受けて皮膚で作られるからです。季節、場所、機会に合わせて紫外線からの防御を柔軟にすることが大切です。

小林皮膚科クリニックでは、紫外線から肌を守る知識をまとめたパンフレット、また敏感肌をお持ちの方へのサンスクリーン剤(日焼け止めクリーム)のサンプルなどをそろえておりますので、ご相談ください。
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# by kobayashi-skin-c | 2010-05-26 10:16 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
2010年4月27日教室『ここがポイント、4月から始まる医療制度改革』
「崖っぷちの日本の医療を救う」と名うったマニフェストで始まった医療制度改革ですが、最近決定された診療報酬改定では0.19%増だけにとどまり、20%増をうたっていた鳩山総理の約束はまったく実現されませんでした。とにもかくにも、この数字の中でやりくりする以外にはありませんが、この改革によってどうみなさまの日頃の医療が変わるのか、そのポイントについて解説します。
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# by kobayashi-skin-c | 2010-05-12 16:35 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
2010年2月23日教室 『新しい乾癬の治療薬、生物製剤の使い方』
バイオロジックス(生物学的製剤)

 2010年1月、新しい乾癬の治療薬が登場しました。すでにお聞きの方も多いかと思いますが、2009年、全国の患者会有志が、この薬を必要とする方たちに一刻でも早く使っていただくことができるよう、厚生労働省に迅速審査の要望書の提出・署名活動を行い、早期の承認が実現したものです。皆さんがこのバイオロジックス(生物学的製剤)をより理解していただけるよう、その効果、副作用などについて、ご説明したいと思います。

バイオロジックスとは
 これらの薬が、生きた細胞(動物、植物、細菌、真菌を含む)で作られることから、バイオロジックス(生物学的製剤)と呼ばれています。今に限ったことではなく、北里柴三郎先生が破傷風やジフテリアの治療薬として開発したワクチンは、当時ウマを使って作られましたが、これも立派なバイオロジックスなのです。
ステロイドにしろ、ビタミンDにしろ、大半の薬剤は工場の機械の中で合成されて作られています。これら大量生産可能な薬と違って、今作られているバイオロジックスは細胞というたいへん、たいへん小さな生き物の中で作られることから、作られる量が少ない割に膨大な手間とコストがかかります。
その工場となる生きた細胞は、抗体と呼ばれるタンパクを作るためだけに特化したもので、一つの抗原(タンパク、ペプチド)だけに対して、一つの抗体だけを作らせることができます。この作られた抗体をモノクローナル(単クローン)抗体と呼びます。現在のバイオロジックスのほとんどが、このモノクローナル抗体です。何の抗原(タンパク、ペプチド)を標的にして無力化させるのか、その目的によってさまざまなモノクローナル抗体の創薬が可能です。最近ではがん細胞が持つタンパクを狙ったバイオロジックスも作られています。

乾癬の病気メカニズム、そして、そのピンポイント治療
 乾癬が起こるメカニズムが近年の研究で急速に進み、免疫の異常な働きが明らかにされてきました。とくに、免疫の主役となるT細胞にその元があることが、図1のように分かってきました。そのT細胞の働きを調節する分子(タンパク)、T細胞が出す免疫作用物質(サイトカイン)をピンポイントで無力化させると、理論・実験的には乾癬が治ることになります。ピンポイント攻撃を可能とするのが、バイオロジックス=モノクローナル抗体です。バイオロジックスは、選択的標的療法とも呼ばれています。乾癬の病気メカニズムの研究で分かってきたいろいろな分子(タンパク)やサイトカインをその標的として、図2、表1のようにバイオロジックスが作られてきました。
 その中でとくに良い効果を発揮したのが、TNFαというサイトカインを無力化させるバイオロジックスでした。現在、厚生労働省で審査中のInfliximab(インフリキシマブ、商品名:レミケード)、Adalimumab(アダリムマブ、商品名:ヒュミラ)です。そしてもう一つ、熱い注目を浴びているのが、T細胞の中でもTH17と呼ばれる細胞の働きを抑えるUstekinumab(抗IL-12/23 p40モノクローナル抗体)です。現在わが国でも開発試験中です。この三つのバイオロジックスの特徴を表2にまとめます。

Infliximab(インフリキシマブ、商品名:レミケード)
 インフリキシマブ、商品名:レミケードは、TNFαを無力化させるために作られたモノクローナル抗体です。この抗体はマウス(ネズミ)の細胞を工場として作られています。ただし、ネズミの抗体をそのままヒトに注射すると拒絶反応を起こしますので、TNFαを無力化させる部分はそのままですが、その他の部分はヒト型のタンパクに置き換えられています。それでも、一部にネズミのタンパク部分があるので、弱い拒絶反応が起こる場合があります(点滴注射中の発熱、吐き気など)。また長く使っているとヒトの体の中に中和抗体が生じ、抵抗性となってしまいます。
 点滴注射で最初の2回は2週おきに、それ以降は2ヶ月に1回の注射を続けます。PASI 75という効果指標(注釈を参考)で、73~82%という高い効力を発揮します。わが国では、関節リウマチ、クローン病で使われています。

Adalimumab(アダリムマブ、商品名:ヒュミラ)
 アダリムマブ、商品名:ヒュミラは、TNFαを無力化させるために作られたモノクローナル抗体です。この抗体はヒトの細胞を工場として作られているので、拒絶反応はなく、また皮下注射できますので、自宅での治療が可能です。ヒトの細胞を工場として作られたヒトのモノクローナル抗体であることから、インフリキシマブよりも若干効果が劣ります(PASI 75は、53~80%)。
 専用の注射器で2週間に1回、皮下注射を続けます。2008年から関節リウマチの患者さんに使われています。

Ustekinumab(抗IL-12/23 p40モノクローナル抗体)
 乾癬の病気メカニズムの観点から、いま一番注目されているバイオロジックスです。最近行われた開発試験では、優れた効果と、高い忍容性(副作用が少ないこと)が確認されました。わが国での開発試験は現在進行形で、認可までにはあと数年は要するでしょう。
 ヒト型のモノクローナル抗体であり、2~6ヶ月に1回の皮下注射でよいと言われています。

バイオロジックスの副作用
 バイオロジックスは、乾癬病気メカニズムに即したピンポイント攻撃可能な治療法ですが、乾癬の病気の部分だけではなく、体全体の免疫力にも影響を与えます。いちばん懸念されるのが、免疫力低下よる感染症です。インフリキシマブを使っていたリウマチ患者さんで、約3%の頻度で重症感染症が起こっています。肺炎、カリニー性肺炎、結核などです。とくにわが国では、結核を潜在的に持っている人が多いため、バイオロジックス治療前にはツベルクリン検査を含め、注意をすることが大切です。
 また、予測もしていなかった副作用が生じていることも事実です。関節リウマチ、クローン病患者さんのバイオロジックス治療中に、乾癬、掌蹠膿疱症(限局性膿疱性乾癬)が生じた症例が報告されています。そのほかにも、心臓(うっ血性心不全)、脳細胞への影響(脱髄性疾患、多発性硬化症など)も指摘されています。
 バイオロジックスはまったく新しい治療法であり、免疫反応の全容もまだまだ分かっていない部分が多いことから、今までの知識で予想できない副作用が生じることがあるのです。バイオロジックスを始めるに当たっては、治療を受ける患者さんも、また治療を行う私たちも、細心の注意と緻密な検討が必要と思われます。

バイオロジックスのコスト
 バイオロジックスを作るには膨大な手間とコストがかかっているため、治療の際の費用も大きなものです。症状・体重により若干の差はありますが、一年間で約200万円(詳細は表を参照)がかかります。乾癬の病気の性質上、症状を抑えるために治療は長期にわたります。この費用上の問題点をいかに克服するか、みんなの知恵が必要です。乾癬のつらさに分け隔てはありません。治療に分け隔てが生じることがないよう、みんなで考えましょう。

注釈
PASI 75とは、Psoriasis Area Severity Index 75%改善、のことを表します。PASIスコアが治療以前の75%以下になることを指し、寛解に近い状態を得ることと言ってよいでしょう。

図・表付きのパンフがクリニックに準備されています。ご希望の方はクリニックでお申し出ください。
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# by kobayashi-skin-c | 2010-02-26 19:00 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)