9月3-4日、山口県宇部市で第25回日本乾癬学会が開催されました。別府市城島高原のホテルで開かれた第1回乾癬研究会から四半世紀が過ぎたことになります。今回の学会を主催した山口大学皮膚科教授武藤先生も次のような言葉を、プログラムの巻頭言で述べられています。
「顧みますと、ここ十余年間に免疫学・細胞生物学はめざましい進歩を遂げ、免疫学の精緻な理論に裏付けられた生物製剤の開発・臨床応用が現実のものとなり、乾癬は不治の病ではなく、制御可能な疾患といえるようになりつつあることは、患者さんのみならず、皮膚科医にとっても大きな喜びであります。」 武藤先生の言葉の中にあるように、今年の1月から乾癬治療の現場で使うことが可能になった生物学的製剤の登場が、この学会を特徴づけていました。昨年までは招待講演の中で、海外のデータが外国人の先生によって紹介されるぐらいにとどまっていましたが、今年の乾癬学会の一般演題では生物学製剤関連の報告がじつに25もの数に上りました。生物学的製剤の登場を待ちかねていたかのように、多くの患者さんで使用され、そしてその投与方法の工夫、効果、副作用が報告、討議されたわけです。一般演題のみならず、特別講演、シンポジウムなどで、7人の先生からの講演もありました。 生物学的製剤の詳しい内容は、このブログ中「よくある疾患」の項を参照にしてください。さて、今回の報告の中では目立った大きな副作用もなく、生物学的製剤は安全に使われているようですが、効果の面ではかならずしも満点ではないようです。費用対効果の面からは、すべての乾癬患者さんにお勧めできる治療ではありません。いままでの外用治療、紫外線治療、内服薬による治療が大切であることに変わりありません。飛躍的に進んだ乾癬の発病メカニズムの解析から生み出された生物学的製剤ですが、かならずしもピンポイント治療にはなっていないようです。生物学的製剤が逆に、乾癬・膿疱性乾癬様の副作用を起こすこともあります。まだまだ分かっていないメカニズム、原因があるのです。 生物学的製剤を乾癬治療の現場でいかに生かすか、そのことについて京都大学皮膚科教授、宮地先生が次のように述べられています。 乾癬治療を考える -これからの治療戦略- 「どこまで登る『乾癬』ピラミッド」 「生物学的製剤をふくめて、いずれの治療もまだ対症的療法の域を出ていない。生物学的製剤は治療標的を次第に狭めつつあり、乾癬という高い頂きを目指してはいるものの、現実の日常診療ではいまだ麓にとどまっているのが実情であろう。・・・・・・・・、生物我的製剤が治療の選択を広げ、患者にとって大きな福音となったことは論を俟たないが、結局は、患者ごとに異なるピラミッド計画を策定し、外用剤から生物学的製剤までを併用あるいは使い分けることが皮膚科医の腕の見せ所である。」 会場からの「価値観、人生観がさまざまである患者さんと、互いにピラミッドの頂をながめながら、どのようなことをゴールとして目指すことを提案するのですか?」の質問に対し、宮地先生は「乾癬はコントロール可能な疾患であり、患者さんが幸せに生きることに障害とならないよう、いま手にすることができる最良の治療を選択することが大切である。」とお答えになっていました。 今回の学会であったユニークな提案に、シンポジウム「乾癬治療のエキスパート育成を目指して」があります。なかでも、「乾癬患者会との関わり-患者の声を聞いて-」のテーマで、お二人の先生が発表された講演には感銘を受けました。 群馬大学、安倍正敏先生は「患者会と適切な距離感を保つ重要性」と題し、「・・・・、他方、患者との懇親の場ではとことん距離を近くする。患者と酒を酌み交わすことに異論もあろうが、私にとって患者のホンネを知る貴重な時間は「乾癬治療のエキスパート育成」の大切な課外授業である。」の内容を、そして大分県立病院 佐藤俊宏先生は、「患者は患者を救う、医師も救われる」と題して、「患者の気持ちは同じ病気に悩む患者が一番よく理解できる、患者はかたわらにいるだけで患者を救うことができるのである。そして患者会活動はその範囲にとどまらず、多くの方々が熱心に勉強し、最新の情報を共有している。この情報は医師にとっても有益であり、私は大いに救われてきた。また全国の患者会による署名活動のおかげで私たちは生物学的製剤の使用をいち早く手にすることができた。すべての患者、皮膚科医が救われている。」の内容をお話しされました。また医師のみならずエキスパートナースの重要性も、聖路加国際病院皮膚科看護師の金児玉青さんから報告されました。 最後に東京慈恵医大から発表された「一般社会における乾癬に対する認識度調査」を紹介します。 乾癬の罹患がなく、家族にも患者がいない一般人1030名(20~60歳の男女)に対して、インターネットで調査を行なったとのことです。 結果① 「乾癬」 という病気を知っているか? 知っていた9.5% 聞いたことがある 40.9% 知らなかった49.6% 結果② 「乾癬」を認識していた50.4%(519名)の認知の内容は、 かゆみが激しい病気66.5% 皮膚がはがれる病気51.1% 原因は感染症33% 電車やレストランでの同席を避ける47% 入浴、水泳中の接触を避ける76% 自身が乾癬だったら肌を出したくない72% 自身が乾癬だったら精神的につらい61% (結 語)日本社会一般での乾癬に対する認知度は低く、乾癬の特徴として「症状がうつる」、発症原因として「乾癬→かんせん=感染、伝染性」という誤解が根強い。乾癬患者のQoL向上の一環として、患者会と乾癬学会による正しい広報活動を行なっていくことが重要である 。 生物学的製剤の登場により大きく様変わりすることが確実な乾癬治療ですが、やはり患者さんと一緒に歩みを進めながら治療法を選択したり、治療を続けたり、あるいは乾癬の正しい理解をふかめるための社会活動も繰り広げたり、もちろん生物学的製剤だけではなくさまざまな治療法に精通した乾癬治療エキスパートでありたいと実感した2日間でした。 学会終了後には、全国患者会が主催した学習懇談会も開催され、山口大学の山口先生が参加された大勢の患者さんに乾癬を分かりやすく講演されました。その後の懇親会では、それこそ「とことん距離を近くする」宴会場で全国患者会の皆さんと懇談することができました。涙と笑いの連続でしたが、患者会の輪は山口県にも広がりそうです。
by kobayashi-skin-c
| 2010-10-27 15:24
| 「皮膚の健康教室」抄録
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