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2011年8月23日教室『乾癬の最新治療、生物学的製剤の実際の使い方、効果などについて』
バイオロジックス(biologics 生物学的製剤)は、
2010年1月にアダリムマブ(ヒュミラ)、インフリキシマブ(レミケード)が保険薬として認可され、乾癬治療の主役として躍り出ました。保険薬認可に際しては、新薬試験の迅速審査を求めて全国の乾癬患者会が署名活動を行い、厚生労働省の決定を早めたことは画期的なできごとでした。さらに2011年3月には、ウステキヌマブ(ステラーラ)が登場し、バイオロジックスがさらに使いやすいくなりました。

現在まで、
小林皮膚科クリニックでは、ヒ ュ ミ ラ:2名、レミケード:9名、ステラーラ:6名、エンブレル:2名の治療を行っています。いずれの方もバイオロジックス治療が必要と判断され、患者さんと熟慮を重ねて開始されました。開始に当たっては、小林皮膚科クリニックでは実施できないため、認定施設である北海道大学病院、市立札幌病院、JR札幌病院の皮膚科、またバイオロジックス治療に精通するリウマチ科の先生(佐川昭リウマチクリニック、クラーク病院)に治療を依頼しました。バイオロジックス治療が必要と判断された何人かの事例を紹介いたします。
ヒュミラ① 60代男性.膿疱性乾癬・関節炎。48歳の時に角層下膿疱症を発症。その後皮膚症状に加え発熱も生じるようになり、膿疱性乾癬と診断された。チガソン30-50㎎の内服で症状は抑えられたが、チガソンを減量すると皮膚症状の悪化がある。50歳代半ばからは全身の関節痛を伴うようになり、抗リウマチ治療(プレドニン、リウマトレックス)も加わったが、日常生活の不自由度は大きかった。
 2009年6月、ヒュミラを開始。関節症状は著明に改善し、日常生活は楽になったが、皮膚症状にチガソンはまだ欠かせない。

ヒュミラ② 40代女性。18歳で尋常性乾癬を発症。外用PUVA療法、ナローバンドUVB治療が効果をあらわしたが、通院の負担、また若い女性であるだけに精神的な苦痛が大きかった。
 2010年4月、ヒュミラ治療を開始。半年はあまり効果が見られなかったが、最近ではほとんど乾癬が消失し、ヒュミラも1ヶ月一回に減量している。

レミケード① 30代女性.16歳の時に尋常性乾癬を発症。20代半ばからは関節痛が強くなり、指の変形、足首関節の脱臼・運動制限が現れるようになり、日常生活が大変となった。とくに子供の育児に支障を来たすようになった。プレドニン、リウマトレックス治療も効くには効いていたが不十分であった。
 2008年9月、レミケードを開始。関節痛が著明に改善し、子供も小学生となり、精神的にも大きく楽になった。皮膚の症状は残存するがわずかだけとなった。

レミケード② 70代女性.膿疱性乾癬・関節炎。55歳で尋常性乾癬を発症。全身に広がりたいへん重症であったが、さらに62歳の時に膿疱性乾癬となった。その頃から関節の痛みが激しくなり、日常生活が著しく不自由になった。チガソンは有効であるが、減量が困難であった。
 2010年11月、レミケード開始。第1回目の点滴の翌日から関節痛は著明に改善し、「夢のようだ」との感想。

ステラーラ① 20代女性。膿疱性乾癬・関節炎。11歳の時に乾癬を発症。外用PUVA療法、入浴PUVA療法を主体の治療を続けていたが、20歳の頃から膿疱を生じるようになり、発熱もあり膿疱性乾癬と診断された。チガソンは継続が難しく、ネオーラルの効果もあまりみられなかった。
 2010年11月、レミケードを開始。しかし、5回の点滴で無効。2011年6月、ステラーラに変更して乾癬は著明に改善した。

ステラーラ② 40代男性。尋常性乾癬・関節炎。20歳の時に乾癬を発症。入院・外来にて外用PUVA療法、ナローバンド療法を主体の治療を続けていた。紫外線治療はよく効いていたが、農家のため定期的な通院が困難であり、関節炎も伴うようになった。
 2011年7月、ステラーラを開始。2回目の注射終了時、乾癬はほぼ消失した。

バイオロジックスはたいへん優れた薬剤です。しかしまだこの新しい治療に参加された患者さんはまだごくわずか。皆さんにこの新しい治療法を説明する時、かならず皆さんから受ける質問は、「治るんですか?」。
 残念ながらこの新しい治療法もまだ対症療法に過ぎません。「いったい、どれぐらい続けなくてはならないんですか、しかもそんな大金を払って」という壁にぶつかります。
 その費用は、薬剤費だけみても
ヒュミラで初年度¥576,000、2年目以降¥555,000。
レミケードは初年度¥963,000、2年目以降¥842,000。
ステラーラは初年度¥640,000、2年目以降¥512,000。
いずれも高額です。高額療養費負担をはじめ、税の医療控除などいくつかの減免措置はありますので、バイオロジックス治療をお考えの方は、かならず医師、また保険事務所などに詳細をおたずねください。

そして、新しい治療法であるだけに副作用のことも皆さま気がかりです。新しい概念の薬剤であるだけに未知の副作用もあり得ますが、一番懸念される免疫抑制作用のうち感染症について、中間調査報告ではわずか一人の結核が出ただけでした。このお一人も飲むべき抗結核薬を患者さんが服用していなかったことが原因でした。もちろん、私達も皆さまも、この新しい治療法を大切に育てるために、ガイドラインをきちんと順守すること、また未知の副作用をいちはやく察知することが大切であると思います。
by kobayashi-skin-c | 2011-08-24 19:16 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
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