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2011年10月25日教室『子供の皮膚のトラブル、そしてスキンケア、アトピーを中心に』
お子さんの皮膚のトラブルとしてもっとも多いのは、やはり湿疹、あせも。なかでもアトピーがお母さんを(お父さんも)悩ませます。いったい、なぜうちの子が?何が悪いの?食べ物?ダニ・ほこり?ストレス?明確な解答はだれも持っていませんが、みんなで考えてみましょう、お子さんのスキンケアを、心と体のケアを。

子供の皮膚の特徴
1.生命維持に不可欠な皮膚は、母胎内環境から外気環境に変わると同時に劇的な変化を遂げ、急速に皮膚バリア機能を成熟させる。
2.小児の皮膚も基本構造をすべて備える。
3.皮膚・皮下脂肪の厚さは大人に比べ薄く、細胞の水分含量が多い。
4.皮膚附属器(毛、爪、脂腺、汗腺)は未熟だが、単位面積あたりの個数が大人より多く、機能は十分にある。

子供の皮膚で気をつけなくてはならないこと
①皮膚の役割で一番大切な「体内を守るバリア機能」を十分に備えていることから、むやみに清潔保持のための消毒、清拭などを行わない。
②皮膚が薄く、水分含量が多いので、皮膚からの薬の吸収度が大人よりも大きい。外用剤(塗り薬)は大人よりも弱めにする。
③小児期の皮膚幹細胞の発生・発育過程はまだよく分かっていないが、幹細胞の遺伝子に傷がつくと、将来的な皮膚がんの発生が懸念されるので、DNA損傷をきたすような過度の日光浴、やけどには気をつける。

小児の皮膚のトラブル
神奈川県立小児医療センター皮膚科(馬場直子先生)の
報告(1994年)では、
1.湿疹・皮膚炎(アトピー性皮膚炎など)
2.母斑・血管腫(ほくろ、赤あざ、黒あざなど)
3.感染症 ①ウイルス性感染症(イボ、ミズイボ、はしか、風疹、手足口病、リンゴ病など)②細菌感染症(とびひ、おでき、SSSSなど)③真菌感染症(カンジダ症、みずむしなど)④虫による感染症(アタマジラミ、疥癬など)
4.良性腫瘍(毛母腫など)
5.薬疹・中毒疹
6.毛髪異常(円形脱毛症など)
7.蕁麻疹
8.そのほか、やけど、爪の異常、形成異常(副乳、副耳など)、魚鱗癬など角化異常症

小林皮膚科クリニックでの集計はありませんが、やはり圧倒的に多くの湿疹・皮膚炎(アトピー)のお子さんが受診されています。

アトピー性皮膚炎
<原 因>
 アトピーの原因はまだピンポイントには分かっていません。かつてはアレルギー一本槍に考えられていましたが、最近の研究では、肌質的に(生れつき)皮膚のバリア機能が弱い(乾燥肌を起こしやすい)ことが、アレルギーよりもさらに根っこの原因であることが明らかにされました。その詳しい内容は、2010年6月22日皮膚の健康教室『アトピー性皮膚炎の原因と治療』の抄録を参考にしてください。

<スキンケア>
 アトピー性皮膚炎のお子様を持たれるお母さんに、一番して欲しくないこと。それは「清潔が一番」と、毎日お風呂に入れさせたり、肌をごしごし洗ったりすることです。
 北海道のアトピー性皮膚炎の患者さんでは、夏よりも冬に悪化する人のほうが多く見られます。これはもちろん冬の空気のほうが、とくに室内では乾燥しているからです。毎日の入浴、石鹸による清拭は皮膚をますます乾燥させて、かゆみに拍車をかけ、皮膚を悪化させます。
 「保湿剤の使用はアトピー性皮膚炎のスキンケアに有用である」ことが医学的調査から明らかにされており、日本皮膚科学会のアトピーガイドラインでも治療の重要な項目と位置付けられています。ただし湿疹が重症な時は、保湿剤の使用がかえってかゆみを引き起こしたり、かぶれの原因になったりしますので、皮膚炎をきちんとコントロールしたうえで保湿剤を塗ることが大切です。とくに尿素が入った保湿剤は刺激を起こしやすく、皮膚バリアを壊してしまう作用を持ちますので、注意が必要です。

<治 療>
【根拠が高い治療】
1.ステロイド剤外用
2.免疫抑制剤外用
3.ステロイド内服
4.免疫抑制剤内服
5.スキンケア
6.紫外線治療

【根拠が少ない治療】
•抗ヒスタミン剤・抗アレルギー剤内服
•脱感作療法
•抗ダニ対策
•漢 方 薬
•非ステロイド・抗炎症薬外用
•心理療法
•消毒・抗菌治療
これはEBM(evidence based medicine 根拠に基づいた医療)の観点からみた治療の選択手段です。スタンダードな方法であり、小林皮膚科クリニックでも1~6の治療手段を用いています。しかしながら、大多数の患者さんにそうであっても、個々の患者さんではこれらが合わない場合もあります。その人その人に、そしてその時その時に合った治療方法を選ばなくてはなりません。

<医師によって言うことが違う?>
 ステロイド外用剤の使い方、食べ物アレルギーの気を付け方などで、ずいぶんと医師の説明に違いがあり、混乱された患者さん、お母さんがおられると思います。日本アレルギー学会、日本皮膚科学会のアトピーガイドライン策定後から、そうした混乱は減ったように思いますが、今でも小児科の先生と皮膚科の先生で多少温度差があるように感じます。

【小児科医vs皮膚科医の温度差】
1.小児科ではステロイド外用剤はマイルドなものを選ぶことが多く、NSAID外用薬も頻繁に使われる。
→ 私たち皮膚科医の考えた方
①NSAID外用薬はかぶれを起す(ブフェキサマック軟膏は発売中止)。
②NSAIDはTh1サイトカインを選択的に抑制し、
 逆にTh2(アトピー型のアレルギー反応)をたかめる。
③マイルドなステロイド外用治療は炎症を慢性化する。
④濃度を希釈しても副作用が減るわけではない。

2.小児科ではプロトピック軟膏を敬遠する傾向がある。
→ 私たち皮膚科医の考えた方
①プロトピック軟膏は免疫抑制からリンパ腫を懸念されたが、動物実験とじっさいの臨床は異なる。
②プロトピック軟膏は使用当初刺激症状があるが、初回処方時にきちんと説明すると、乗越えられる。
③プロトピック軟膏は眼への影響がないのでまぶたにも最適である。
④バリア機能が回復すると、プロトピック軟膏は経皮吸収されないので、より副作用を起しにくい。

3.小児科では、食物アレルギーを原因として重視する傾向があり、過度の食物制限がときにみられる。
→ 私たち皮膚科医の考えた方
①食物アレルギーは確かに存在する疾患であるが、アトピー性皮膚炎とは別疾患である。
②食物アレルギーはアナフィラキシー型がほとんどで、湿疹型への関与は少ない。
④行き過ぎた除去食はこどもにとって有害である。

以上、お子さんの皮膚のトラブル、スキンケアについて、アトピー性皮膚炎を中心に勉強しました。
by kobayashi-skin-c | 2011-10-30 17:57 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
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