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2012年7月24日教室 『第3回世界乾癬・乾癬性関節炎会議に出席して』
6月27日-7月1日、スウェーデンのストックホルム市において、第3回世界乾癬・関節炎会議が開催されました。IFPA(世界乾癬患者会連盟)が主催するもので、患者さんが主体の患者さんの目線に沿った会議で、最新の乾癬の研究、治療について世界の第一線の研究者から報告・討議がなされました。また乾癬の理解を深めるための世界的活動の方針についても代表者で話し合われました。日本の代表者として参加させていただきましたので、その模様を詳細に報告したいと思います。
北極圏にほど近いストックホルムの夏は、とてつもなく朝が早く、夜が遅い。街々は光に溢れ、水面はきらきらと輝いていた。ブログ「PHOTO & ESSAY」     http://ksclinic.exblog.jp/もお訪ねください。

3年に1回のこの会議は6年前の2006年、同じストックホルム市で第1回目が開催されました。日本はその前年にIFPA加盟を果たし、乾癬の会(北海道)から3名、山形乾癬の会から1名、大阪乾癬患者友の会から1名、そして私の総勢6名が参加しました。その時の会議参加者が600名、第2回目が800名、そして今回の会議にはじつに1,200名の参加者があり、内訳は各国患者会代表者、医師、研究者、製薬メーカー関係者、報道関係者と多岐にわたるものでした。日本からの参加者は私のほかに、東北大学の相場教授、製薬メーカーから5-6名でした。

今回の会議はまだできたばかりのストックホルム市ウォーターフロント会議場。目の前にストックホルム市庁舎、メーラレン湖を望む大変美しい会議場で、ここで5日間勉強し、討議し、交流を深める機会を得たことに、大変感激しました。

2012年7月24日教室 『第3回世界乾癬・乾癬性関節炎会議に出席して』_c0219616_950291.jpg開会の挨拶をするIFPA会長Lars Ettarp氏
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この会議の学術部門チーフ、米国テキサス大学皮膚科教授Alan Menter 氏
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ウォーターフロント会議場はガラス張りで、その向こうにノーベル賞授賞式後に開かれる晩餐会、舞踏会会場となる赤いレンガの市庁舎、メーラレン湖のパノラマが広がり、あたかも映画のスクリーンを見ているような錯覚におちいる。
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ストックホルムは「水の都」。氷河が刻んだ複雑な入り江、湖の辺に町が広がる。空が広く、青く、白い雲が美しい。








第3回世界乾癬・関節炎会議のテーマは、
“Psoriasis – a global health challenge”
(乾癬 ‐ 地球的規模の健康への挑戦)


global(地球的規模)とは、乾癬は
乾癬に苦しむ個人から、家族・友人、そして皆を包む社会、地域、
国、そして全世界に広がるということ

health(健康)とは、乾癬は
皮膚の深さだけにとどまらず、関節炎を伴いやすく、精神・心理的な
負担、さらに心臓血管障害、糖尿病、クローン病など全身の健康に
関わるということ

challenge(挑戦)とは、乾癬は
医学的・科学的に解明を目指して、社会的・世界的な取組み、
もちろん患者個人としてのチャレンジが試される病気であること

会議の冒頭に、IFPA会長のEttarp氏から "a global health challenge" への意気込みが高らかに宣言されました。


学術面で最初の講演は、米国のJames Krueger教授による「Th1細胞,Th17細胞,Th22細胞が複雑なサイトカインネットワークによって、細胞レベル、分子レベルで乾癬を引き起こす」でした。その要約を示すスライドを幾枚か失敬します(Krueger先生、ごめんなさい)。

2012年7月24日教室 『第3回世界乾癬・乾癬性関節炎会議に出席して』_c0219616_1193592.jpg乾癬の原因究明、病態(病気の起こり方)解明の主役となった免疫学的研究の最先端を行くKrueger先生の、最新情報がコンパクトにまとまった素晴らしい講演でした。生物学的製剤の治療根拠となるサイトカインネットワークは、現在TipDC - Th17経路によって、きわめて明快に説明されるようになり、Th17細胞が放出するIL17が表皮細胞(ケラチノサイト)の乾癬化を起こします。現在使用されている抗TNFα製剤、抗IL12/23製剤が、より上流(免疫反応の根っこ)で免疫反応を抑制するのに比べ、IL17はより末梢における乾癬の原因サイトカインであることから、IL17の抑制は、より乾癬をピンポイントで、そして副作用もミニマムにすることが期待される。


2012年7月24日教室 『第3回世界乾癬・乾癬性関節炎会議に出席して』_c0219616_1110375.jpg現在、3種類のIL17抑制薬剤が開発され、治療研究が進められている。
①IL17A抗体(Secukinumab Novartis社)
②IL17A抗体(Ixekizumab Lilly社)
③IL17A受容体抗体(Brodalumab Amgen社)

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その一つ、Secukinumabの効果(PASI75)=すごく乾癬がよくなる)では、たった3回の注射で90%以上の患者がPASI75を達成する。

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PASI90(=乾癬がほとんどなくなる)でみても、60%の患者で達成されている。
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Secukinumabの臨床効果。上の段は「プラセボ(偽薬)」、下の段がSecukinumab。
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Ixekizumabの効果(PASI90)。約80%の患者で達成されている。驚異的である。
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Brodalumabの臨床効果
















印象深かった講演をもう一つ、詳細に紹介いたします。
米国のAnne Bowcock教授の"The genetics of psoriasis: Old risks, novel loci (乾癬の遺伝子研究:昔から言われていた異常、新しく見つかった場所)です。Bowcock教授は、乾癬の原因遺伝子について世界で最初に報告した研究者です。ここでも少し講演スライドを拝借(Bowcock先生、ごめんなさい)。

2012年7月24日教室 『第3回世界乾癬・乾癬性関節炎会議に出席して』_c0219616_1215920.jpgBowcock教授は1999年、乾癬家系の詳細な遺伝子調査から第17染色体に乾癬と関わり深い遺伝子異常があることをみつけ、科学雑誌Scienceに報告した。21世紀を迎える直前のことであり、遠からず乾癬の原因遺伝子が確定し、完治治療を開発することも夢ではないと、当時期待したものでした。
ところが、次々と関連遺伝子はみつけられるものの(現在は30種類以上)、肝心の原因遺伝子、特定のタンパク、メカニズムは不明のままでした。

2012年7月24日教室 『第3回世界乾癬・乾癬性関節炎会議に出席して』_c0219616_1224152.jpgBowcock教授の息の長い研究は、第17染色体上にあるCARD14と呼ばれるタンパクの、その異常が直接乾癬を起こすことを説き明かしました。CARD14は細胞膜上にあるタンパクで、細胞外で起こる炎症から生じる様々な刺激物質を、細胞の膜から細胞の中へ伝える役割を果たしています。その伝達経路はNFκBを介しています(乾癬ではこの経路が活発に動いていることが、高知大学の佐野教授により解明されました)。
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遺伝性膿疱性乾癬患者では、このCARD14遺伝子に点突然変異が起こっていることを発見しました。この点突然変異だけで、特殊タイプではありますが、乾癬の原因が特定されたのです。
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点突然変異だけではなく、CARD14遺伝子に起こりやすい変異も、ほかの遺伝子異常(PSORS1、MHC遺伝子)、あるいは環境変化が加わると乾癬を引き起こすことも証明しました。






大変感銘深い講演でした。
会議の模様、IFPA代表者会議の報告は、また後日掲載いたします(『2012年9月教室抄録』をご覧ください)。
ブログ「PHOTO & ESSAY」もご覧ください。
by kobayashi-skin-c | 2012-07-26 09:55 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
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