昨夏、憧れの穂高を登り、その向こうに見える槍ヶ岳に目は釘付けとなった。天を衝く鋭い岩峰を眺め、『来年は、槍だ』と心に決めた。
2012年8月11日(土)昼過ぎ、午前の診療を終え新千歳空港から信州松本空港へ、そしてJRで穂高駅へ、そしてタクシーに乗って燕(つばくろ)岳登山口の中房温泉へ。もう薄暮のころ、やっと辿り着いた。日本秘湯100選の関脇格にもランクされる素晴らしい温泉もそこそこに、山の「早寝・早起き」を鉄則として、夢の中へ。 翌8月12日早朝、温泉をあとに登山口へと向かった。 空は青空。天気予報をみごとに裏切ってくれた。 しかし、合戦尾根の厳しい登りの途中からは雲が広がり、合戦小屋で美味しいスイカを食べた後からは、霧の中へと入っていった。 燕岳は美しい花崗岩の山。オブジェのような岩が連なり、サラサラとした白い砂地にはコマクサが群落をつくっていた。 燕岳から大天井岳を経て、西岳、そして東鎌尾根をつめて槍の頂上にいたる縦走路は「表銀座」と呼ばれる人気のコース。このコースを選んだ理由は「燕山荘(えんざんそう)」の存在。90年の歴史を誇る山小屋は、日本アルプス随一、いや日本一と聞いていた。なるほど、磨き抜かれた木の廊下、古い登山道具が飾られた集会室、食堂のテーブルも重々しい。それに、食堂横のテラスではジョッキの生ビール、そして甘いチーズケーキも売られていた。大勢の登山客で賑わっていたが、その中でも子供が多いのに驚かされた。みんなあの合戦尾根の急坂を登ってきたのだ。すごい! 夕食が終ると山小屋の社長さんが山の美しさと、ありがたさ、ライチョウのけなげさについて語ってくれた。「山に登ることは前向きな人でしかできません、そして山に登るともっと元気になれるのです、山から元気をもらうのです」と教えてくれた。そして話の後には大きな大きなアルプホルンの音色を聞かせてくれた。食後には、夕日と槍ヶ岳を望むことができ、幸せいっぱいな時を過ごすことができた。 さて、翌朝は?夜トイレに起き出したとき空には天の川が見えていたのだけれど、 8月13日朝、あたり一面乳白色の霧の中。雨もぼそぼそ。意を決して燕山荘を出立したものの、ただただ歩くだけ。眼鏡が曇るので、岩場が不自由である。 大天井ヒュッテに着くころ、土砂降りとなったため、ヒュッテで長逗留を決め込んだ。次々と雨宿りの縦走者が入ってきて小さなヒュッテのスペースは一杯になってしまった。私達はトコロテンが押し出されるように再び雨の中へ。午前中のうちに西岳ヒュッテ到着。ヒュッテの主人いわく「ほんとうに泊まるの?まだ時間は早いよ、たいていの人は槍沢のほうへ下山したよ」。天気予報も悪いらしい。西岳ヒュッテの3畳スペースは、熊本から来た父子と一緒だった。高校2年生の息子さんは、初めての縦走体験で、かなり参っていたようである。 8月14日朝、今日も雨が降り続いている。おまけに風も強い。それでもみんな黙々と山の装備を身につけ、次々と出発していった。今日の行程は、東鎌尾根をつめて槍ヶ岳山荘まで。ガイドブックでは、3時間40分の距離。私達はゆっくりと旅装を整え、ヒュッテをあとにした、また雨の中へ。西岳ヒュッテからはいきなり急な梯子場の連続となる。細い尾根伝いの道、鎖、岩よじり、ときどき北鎌尾根の黒く鋭い岩壁が魔物のように聳えているのが、霧の中に現れる。この辺りは「天空の回廊」と呼ばれているらしい。眼前には槍の穂先が迫っているはずなのだが、・・・・・・。 登山路の上に小さな生き物を見つけた。ライチョウだ。逃げようとはせず、一定の距離を保ちながら、あたかも私達を槍ヶ岳に導いてくれるように先行する。 ライチョウに別れを告げ、ヒュッテ大槍を過ぎるころから、雨はますます強まりおまけに強風が吹き荒れるようになった。「寒い!低体温症で遭難とは、こんな状況か」とも思ったが、槍ヶ岳山荘が近いことは確信していたので、ただただ黙々と歩き続けた。 無事槍ヶ岳山荘に到着し、すぐに受付をしようとしたが、手がかじかんで字が書けない、財布の中の紙幣はずぶぬれでよれよれ。あらためて今日の悪コンディションを実感した。濡れた雨具、靴を乾燥室に干して、部屋での休息を決め込んだ。しかし外の天気も気になる。ここまで来て槍ヶ岳の山頂を踏まないことなど考えられない。ときどき窓の外の空を眺める、少し明るいぞ! 濡れた雨具と靴をふたたび身につけ急いで頂上へと向かった。青空と白い霧が交互に頭を覆う。 岩をよじり、鎖を引っ張り、そして長い長い梯子を登りつづけ、最後の一段を踏み越えたとき、青空の下に輝く山頂の祠が目に飛び込んだ。感激の一瞬。 悪天候であったためか、山頂には私達のほかに三人だけ。青空は次々に湧き上がる雲ですぐにかき消される。しばらくするとまた雲の間に間に青空が広がった。向こうの白い雲の上に「ブロッケン現象」が浮きあがった。不思議な光景、昔の人は「山で神に出会った」と思ったことだろう。時を忘れ、槍の山頂のひと時を、心から楽しんだ。忘れ得ぬ思い出、『槍が岳』。 翌15日、また雨の中、槍沢を一気に下り、徳澤ロッジ宿泊。 翌16日、晴れ間が広がる!明神から上高地を散策して、新島々、空港へ。夕刻、無事札幌のわが家に帰りついた。
by kobayashi-skin-c
| 2012-08-29 18:33
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