『ヘルペス』、『帯状疱疹』、どっちもよく聞く皮膚病ですよね。何か、関係あるの?
関係ありそうでもあり、なさそうでもあり。実は両方ともに、ウイルスが原因の病気です。ヘルペスは一般的には『口唇ヘルペス』を意味しますが、ヘルペスは口唇(くちびる)以外にもお尻、外陰部に生じる『性器(陰部)ヘルペス』があります。おもに口唇ヘルペスは単純疱疹ウイルス1型HSV type1(ヒトヘルペスウイルス1型)、性器ヘルペスは単純疱疹ウイルス2型HSV type2(ヒトヘルペスウイルス2型)が原因となります。いっぽう帯状疱疹の原因は、水痘帯状疱疹ウイルス VZVであり、これは別名ヒトヘルペスウイルス3型とも呼ばれます。つまり、『ヘルペス』と『帯状疱疹』は兄弟分のウイルスが原因であり、治療薬もアシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルが共通して使われます。 いずれの病気も頻度は高く、悩まれる方が多いのが実情です。『ヘルペス』は繰り返し出てくることが多く、その痛み、不快さに閉口します。また帯状疱疹は一生に一度の経験であることが多いのですが、神経痛が残ってしまい、いつまでも苦しまれることがあります。 『ヘルペス』と『帯状疱疹』、その原因と治療、そして注意すべきことについてみんなで勉強いたしましょう。 参考資料として「口唇ヘルペスってどんな病気?」、「帯状疱疹と言われたら」の2冊のパンフレットを使用しました。パンフレットを監修された本田まりこ先生、新村眞人先生(口唇ヘルペス)、小澤 明先生(帯状疱疹)、発行元のグラクソ・スミスクライン社に深謝いたします。 『ヘルペス』、『帯状疱疹』の原因はウイルスです。 口唇ヘルペス(単純ヘルペスウイルス1型) 陰部ヘルペス(単純ヘルペスウイルス2型) 帯状疱疹(水痘・帯状疱疹ウイルス) 3つのウイルスは、ヒトヘルペスウイルス群(Human Herpes Virus HHV)と呼ばれ、世界中の多くの人がこれらのウイルスに感染し、一度感染するとウイルスは一生体内に潜伏し、体力・免疫力が弱った時に様々な病気を起こします。 単純ウイルス属(simplex virus) HHV-1 = 一般名単純ヘルペスウイルス1型 (HSV-1:herpes simplex virus-1) HHV-2 = 一般名単純ヘルペスウイルス2型 (HSV-2:herpes simplex virus-2) 水痘ウイルス属(varicella virus) HHV-3 = 一般名水痘・帯状疱疹ウイルス (VZV:varicella zoster virus) リンフォクリプトウイルス属(lymphocryptovirus) HHV-4 = 一般名EBウイルス(EBV:Epstein-Barr virus) サイトメガロウイルス属(cytomegalovirus) HHV-5 = 一般名サイトメガロウイルス(CMV:cytomegalovirus) ロゼオロウイルス属(Roseolovirus) HHV-6:突発性発疹を引き起こす。 HHV-7:突発性発疹を引き起こす。 Rhadinovirus属 HHV-8 = 一般名カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス (KSHV:Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus) 口唇ヘルペス 原因は単純ヘルペスウイルスです ・唇やその周囲に小さな水ぶくれができて、チクチク、ピリピリ痛がゆい。 ・単純ヘルペスウイルスが原因。 ・感染力が強く、直接の接触以外でも、タオル、食器などからも感染する。 ・親子、夫婦間で感染することが多い(愛のウイルス)。 抗体をもっていない人が増えています ・口唇ヘルぺスは、日本人では約半数が、抗体をもっており、何らかの機会に感染している(初感染)。そのうちの半分の人に症状が繰り返し現れる(再発型)。 ・乳幼児期に初感染した場合は気付かれないか、口内炎程度ですむが、大人になって初感染した場合は症状が重い(発熱など)。 ウイルスは体内にひそんでいて何らかのきっかけで再発 ・初感染の後、ウイルスは神経節にひそみます。 ・風邪で熱が出たりした後(“風邪・熱の華”)、疲労がたまったとき、日焼けをした後、胃腸障害、けが、ストレスなどもきっかけとなります。 ・抗がん薬、副腎皮質ホルモン剤、免疫抑制薬なども再発の誘因となります。 ・アトピー性皮膚炎の人では重症化しやすい(カポジー水痘様発疹症)。 早めに治療するほうが効果的 ・再発の予感がしたら、たとえ症状が出ても早い時期に治療を始めるほうが効果的です。 ・抗ウイルス薬の内服が効果的。 ・抗ウイルス薬には、アシクロビル(ゾビラックス)、バラシクロビル(バルトレックス)、ファムシクロビル(ファムビル)。 ・抗ウイルス薬は、ウイルスの増殖を抑える働きをもちますが、ウイルスを殺す作用はありません。 人との接触に注意しましょう ・症状が出ている間は患部にウイルスの量が多く、感染源になります。相手が抗体を持っているときは何の問題もありませんが、 ・新生児、抗体を持っていないパートナー、アトピー性皮膚炎の人、高齢者、病気・薬などで免疫機能が低下している人たちとの接触には気をつけましょう。 患部に触れないように ・患部にはウイルスの量が多いため、自分自身の体にもひろげることもあります。 ・水ぶくれは触らない、破らない。 ・触った手で目に触れない、コンタクトの装着時には、唾でぬらさない。 ・とくにアトピーの人は要注意。 ・外用薬を塗った手もよく洗う。 陰部(性器)ヘルペス 原因は単純ヘルペスウイルス2型 ・性感染症 ・抗体検査で、わが国では一般妊婦等で10%前後 ・米国では、1990年代前半の調査で 12歳以上の国民の21.9% ・70年代の調査に比べると30%も増え、特に12~19歳の若年齢層では5倍に急増している。 帯状疱疹 Herpes zoster ・原因は、水痘・帯状疱疹ウイルスです。 ・たいていは子供の時に水痘に罹患し、ウイルスは一生神経節にひそみます。 ・疲労、ストレスなど免疫機能が弱まったときに、ひそんでいた神経節からウイルスが増殖し、神経痛と皮膚の水ぶくれが生じます。 ・年間50万人前後の人が帯状疱疹になります。5~7人に一人が一生の間、1回は帯状疱疹にかかります。 帯状疱疹の治療 ・まず安静。 ・早期の抗ウイルス療法。アシクロビル(ゾビラックス内服・点滴)、バラシクロビル(バルトレックス内服)、ファムシクロビル(ファムビル内服)、ビダラビン(アラセナA点滴) ・患部の保護。抗ウイルス薬・抗生剤外用。 ・痛みの緩和。鎮痛剤、神経ブロックなど。 帯状疱疹の合併症 ・眼の合併症。三叉神経第1枝の帯状疱疹では眼にもウイルスが入る恐れ。 ・ハント症候群。耳のそばの帯状疱疹では、内耳神経、顔面神経、鼓索神経にも症状が出ることがある(難聴、めまい、顔面神経麻痺、味覚障害など) ・排尿・排便障害。お尻、陰部の帯状疱疹で生じることがある。 帯状疱疹後神経痛 ・通常は発症してから2‐4週間で皮膚の症状、痛みは消失するが、神経痛様疼痛は、治癒した後も後遺症として残ることがある。 ・末梢神経の傷跡と、脳内の痛み受容体の疼痛瘢痕が原因で、年余にわたることが多い。皮膚の症状が重症であった人、高齢者に生じやすく、早期治療が重要である。 ・薬物療法 ワクシニアウィルス接種家兎皮膚抽出液(ノイロトロピン®) 抗うつ薬 (アミトリプチリンなど) ※ 非ステロイド性抗炎症薬 (アセトアミノフェンなど) 漢方薬 (桂皮加求附湯など ※) 塩酸メキシレチン ※ プレガバリン (リリカ、一定の効果を上げている) ・局所療法 カプサイシン、アスピリン、硝酸イソソルビドなど外用 ※ 神経ブロック イオントフォレーシス ※ 低出力レーザー ※(保険適応外) 帯状疱疹の予防 ・免疫力(体力)を落とさないこと。 ・保育園・幼稚園従事者、皮膚科・小児科医は帯状疱疹にかかりにくい。 ・予防ワクチン(水痘ワクチン)、希望者のみ自費で。 ま と め 口唇ヘルペスも帯状疱疹も、たいへん頻度が高い皮膚の病気です。ともにウイルス感染症であることから、予防がもっとも重要といえますが、多くの人は乳幼児期の間に感染し、その後一生潜伏してしまうことから、根本的な予防は極めて困難です。口唇ヘルペスも帯状疱疹もその発症を防ぐには、体の抵抗力(免疫力)を落とさないことが大切です。ごくあたりまえのことですが、ストレス・過労・不摂生に気を付けることだと思います。そして、早期発見、早期治療が重要です。 帯状疱疹の予防ワクチン接種は、わが国ではまだあまり行われていません。しかしながら、帯状疱疹後神経痛のあのつらさのことを考えると、もっと普及させるべきと思います。ワクチン後進国と言われる日本の現状に対し、もっと啓発活動・行政の支援が必要と感じます。 陰部(性器)ヘルペスは性感染症です。性意識の変化とともに、日本の若者の間でも顕著に増加しています。性活動が活発化する思春期に、正しく予防することで陰部(性器)ヘルペスは防げます。一生苦しまないために。
by kobayashi-skin-c
| 2013-05-29 11:54
| 「皮膚の健康教室」抄録
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