11月1,2日、大分市で開かれる講演会、学習会の講師の依頼をお受けした。このせっかくの機会、秋の阿蘇山、祖母山、九重連峰を目指した。昨年訪れた霧島、開聞岳、そして屋久島宮之浦岳を合わせ、「深田久弥の百名山」に記された九州の全山を歩くこととなる。
10月26日、まずは熊本の町から出発した。ちょうど天皇・皇后両陛下がご来訪中であり、想定外の宿泊・交通機関の混乱にみまわれたが、熊本城の夜景は迫力があり、熊本ラーメン(「天外天」)は期待どおりの味であった。10月27日には阿蘇山麓の地獄温泉を訪ねた。近隣の垂玉温泉のビジター入浴も含めると、実に6ヶ所のお湯に浸った。私が住む北海道も言わずと知れた温泉天国であるが、九州のほうがお湯の変化に富み、また温泉に湯治場の雰囲気が色濃く表れている。 加藤(清正)神社から望む宇土櫓と天守閣。立派である。 武者返しの石垣の向うに天守閣。豊臣の治世のおり、朝鮮の役で功をとげ肥後の国を下知された加藤清正は、城造りの名人であったという。 地獄温泉(ポスターを撮影) 「すずめの湯」と呼ばれるどろ温泉(混浴)。特有の色とにおいがあった。最近の北海道では混浴は少なくなった。地獄温泉のすぐ下にあった垂玉温泉の「瀧の湯」も混浴であった。 28日早朝に地獄温泉を出発し、阿蘇山登山口の仙酔峡から阿蘇高岳を目指した。高岳頂上へ至る仙酔尾根は、溶岩が固まったと思われるごつごつとした岩の急登であった。平日であったためか登山者は我われ以外には、5人のおじさんパーティだけであった。尾根の途中からは、中岳噴火口から立ち上る噴煙が近付き、特有の臭いが鼻をつき、そしてときどきゴーッ、ド――ンという噴気の音も聞こえるようになった。世界有数の活火山であることを実感する。 左の鋭い峰が、鷲ヶ峰、右のなだらかな頂が阿蘇高岳 仙酔尾根の急斜面の途中、中岳噴火口の噴煙が見えてきた。低く鈍い噴気の音も聞こえる。不気味である。 高岳山頂は無人であった。高岳の標高は1592m、語呂合わせで肥後国(ヒゴクニ)。 高岳山頂付近はなだらかな斜面で、その向こうに中岳山頂と大きな噴火口が見える。火山活動のため中岳へは入山制限があるものと思っていたが、中岳山頂付近に人の姿がある。我々も中岳に向かい、噴火口を間近にした。 山頂ではフランスから来たという青年に会った。火山を見るのは初めて、"exciting!"とのこと。 中岳から尾根をさらに火口東壁展望台まで下降した。噴煙の臭いが喉をつき、ひりひりとしてくる。監視員が見当たらないが、本当に大丈夫なのだろうか。登山道沿いには分厚いコンクリート壁でできた「避難用トーチカ」がいくつもあった。 火口東展望台から直接仙酔峡へと下山。火口展望の時間も含め、計4時間半の道のりであった。 下山後は、祖母山登山口の尾平へと車で向かった。途中時間があったので竹田の町へ。「荒城の月」で有名な岡城址を訪ねた。ちなみに、竹田は「荒城の月」を作曲した瀧廉太郎の故郷である。 岡城は明治政府の命ですべて取り壊され、石垣が残るのみとなっていた。この城も加藤清正の助言によって築城されたとのことで、頑強な石垣が往時を偲ばせる。『昔の光今いずこ』。 竹田から尾平までの道は舗装こそされていたものの、ほぼ1車線の曲がりくねった山間の道で、その運転には緊張を強いられた。到着した尾平は昔こそ尾平鉱山として栄えていたが、今は民家が数軒残るのみで、そのうちの1軒が「もみ志屋旅館」という民宿であった。夕方、祖母山の稜線が夕焼けに照らされ見事であった。その夜の食事には、山女、鹿、猪、椎茸がふるまわれ、本物の山の幸を堪能させていただいた。 左端が烏帽子岩、そして天狗岩、右端が祖母山山頂 10月29日0700、宿を出発。間もなく眼前に祖母山南壁が美しい姿を見せた。山頂には雲がかかっていたが、ほどなく雲散霧消。深い杉林を抜け徐々に高度を上げると、晴天に岩壁、そして錦模様の紅葉が我々を待ち受けていた。 1130祖母山頂上に至る。山頂からは、傾山、古祖母山が間近に、遠くには昨日登った阿蘇の山々、そして明日登る九重の峰々をくっきりと見渡すことができた。南の方角、遠く遠くに見えるのは霧島の山々だろうか。 山頂に居合わせた登山者から、天狗岩、黒金岩尾根コースは濡れて滑りやすく、下山は危険を伴うとのアドバイスを受け、登りと同じ道を下った。1500尾平下山。すぐに九重登山口の牧ノ戸に向った。 牧ノ戸温泉では、九重連山の一つ、三俣山が夕陽に照らされて紅く燃えていた。 10月30日0845牧ノ戸から久住山を目指した。阿蘇、祖母山では静かな、いくぶん寂しいほどの山歩きであったが、九重の山々は平日と言うのに人で溢れていた。ところで、久住山と九重連山、文字の区別が難しい。詳しくは何らかの資料を参照あれ。九重連山の山裾は所により紅葉、所により裸の梢。どうも紅葉の盛りは過ぎたようだ。 1100久住山山頂 九重連峰の最高峰は久住山(1787m)と思っていたら、なんと4mほど高い中岳(1791m)があった。迷わず登る。久住の頂からは1時間。途中、中岳御池をぐるりと巡った。湖畔からは青い色と思っていた御池は、中岳の頂からはエメラルドグリーンに輝いていた。 中岳山頂からは、久住分れ、北千里を経て、坊がつるにある法華院温泉の山宿を目指した。 北千里は、噴気を上げる裸の硫黄山、緑の三俣山・中岳に囲まれた白い砂地の谷間で、西部劇に出てくるような景色を見せていた。 法華院温泉は、坊がつる湿原の南西端に位置する。ひっそりと佇む山宿は、中世の時代から続く天台宗の寺院でもある。お湯は硫黄泉。白い硫黄の結晶が湯に含まれ、お湯につかっていると肌がぬるぬる、ツルツルとしてくる。乾燥肌に要注意だ。法華院温泉は山宿という言葉がぴったりで、山小屋とは少し違う。かと言ってまったく世俗的ではない。 夕食前に、坊がつるを散歩した。紅葉の大船山、平治岳、三俣山が夕陽に照らされた黄金色の湿原を囲み、錦を織りなしていた。ひんやりとした高原の空気が心地良かった。 10月31日、山の早い朝食を済ませ、九重の山々に別れを告げた。坊がつるは朝日に照らされて黄金色に輝いていた。 この日は湯布院に泊まる。早朝に出発したため時間があるので、湯布院の象徴である由布岳も登ることとした。九重中岳の山頂であった地元の登山者から、「由布岳は記憶に残る山」と教えられたからだ。気軽にそう考えたものの、由布岳、あの勾配は凄い。またここで一つ疑問、駅の名前は由布院、でも湯布院温泉、そして由布岳。きっといろんな歴史が九州にはあるんだろうなあ。 湯布院から見た由布岳 由布岳山頂、登山口 由布岳山頂から見た雲海の向うの九重、祖母山。そして翌朝に見た湯布院の朝霧。 「高崎山に行こうか?」と家内に問うと、「もう山に登るのはいや!」という答えが返ってきた。「それもそうかも知れない」、と思いつつ高崎山を訪れた。猿を見に行くだけなのだから。 11月1,2日、大分市で講演会、学習会。大分のみならず福岡、東京、群馬からも集まってきてくれた仲間たちと交流を深めた。そして途中広島では家族・旧友と昔話に花を咲かせ、11月4日札幌に帰着した。
by kobayashi-skin-c
| 2013-11-07 09:19
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