「たかがニキビ、されどニキビ」
一生のうちでけっして通り過ぎることができない皮膚のトラブルが「ニキビ」。だれしもが経験する「ニキビ」。ニキビは、正確には「尋常性ざそう」とよばれます。ほんとうに「たかがニキビ」と済ませて良いのでしょうか。お父さんも言うように「ニキビは青春のシンボル、気にすんな!」で終わらせて良いのでしょうか。 けっしてそうではありません。ニキビが患者さん(悩む人)にとって重大なQOL障害となることが分っています。QOLとは、"Quality of Life"。「生活の質」、「生きることの充実感」と呼ばれています。ニキビが起こる年齢はちょうど思春期であり、子供の体が大人の体質に変わるころです。男子であれば声変わりするころ、女子であれば初潮を迎えるころです。この思春期には体の内外にたくさんの変化が起こると同時に、心・精神にも重大な変化が起こり始めます。「自我の形成」です。「自分って何だろう?誰だろう?」、「お父さん、お母さんに甘えたい、でもうっとうしい」などの感情が心の中で渦巻きはじめます。そして、ついには「自我の確立」に至るのですが、自我の確立には「自らへの自信・自尊心」が欠かせません。この「自らへの自信・自尊心」の形成を、ニキビが大きく損なわせることが分っています。 人はだれしも"Body Image"を持っています。窓ガラスや鏡に映る自分の姿を確かめたり、自分の影の足の長さを測ったり、自分を確かめながら、自分の理想の姿を心の中に描いています。しかしながら、理想の姿(ideal body image)と現実の姿(real body image)の間には溝があり、その溝に苦しみます。 好きな人ができたりすると、その苦しみはなおいっそうのこと深まります。理想の姿を見て欲しいのに、自分の現実の姿はなんとかけ離れているのだろうか、と。意外とその好きな人の瞳の中ではニキビなんて見えてないのですが、でもBody Imageは自分の心の中のできごと。好きな人の気持ちも確かめないまま、「自らの自信・自尊心」に障害を受けて自信を失ってしまいます。ことに顔の皮膚の変化は心の中の重大なできごととなり、自我の形成に大きな悪影響をおよぼしてしまいます。 それがニキビの問題なのです。 お父さん、お母さん、「たかがニキビ」ではありません。 「されどニキビ」。世界のニキビ治療は大きく変わっています。 わが国でも日本皮膚科学会が「尋常性ざそうの治療ガイドライン」を作成しました。今まで以上に実証性をふまえた治療が可能となっています。ニキビの治療は大きく変わりました。病院で処方される新しい外用薬がニキビの治療・予防に役立ちます。 ニキビは皮膚の病気です。皮膚科医の適切なアドバイスが必要です。お父さん、お母さん、「たかがニキビが、・・・」と言う前に、「皮膚科で相談してごらん」の優しい言葉を忘れずに。新薬の情報・使い方は、クリニックのパンフレット等でお知らせいたします。 思春期、男性ホルモンの分泌が高まります(女性でも副腎で男性ホルモンは作られます)。男性ホルモンは皮膚にも、とくに毛嚢(毛包)、脂腺、アポクリン腺に働き、毛包出口(毛穴)の角質肥厚が起こり、同時に高まる脂腺の活動・皮脂の増加によってニキビが出現します。これが白ニキビ、黒ニキビです(面ポウ)。毛包にはニキビ菌が常在しているため、毛穴が閉じると同時にニキビ菌の活動が活発となり、炎症を起こしてしまいます(赤ニキビ)。さらに炎症のため毛包が破壊されると、強力な異物反応がおこり、大きく腫れたり、皮膚のひきつれが起こってしまいます(ニキビケロイド)。 毛包出口(毛穴)の角質肥厚を改善させるのが新しいニキビ薬=アダパレン(商品名ディフェリンゲル)です。ニキビ菌を抑える薬としては抗菌薬であるミノマイシン、ルリッド、ファロムなどの内服薬、ダラシン、アクアチムなどの外用薬が使われます。 重症のニキビ治療が、まだわが国では遅れています。大きなぶよぶよとしたニキビができたり、ニキビ痕がケロイド状になったりするタイプは、既存の内服薬、外用薬で容易に改善しません。海外では「イソトレチノイン」の内服が使われています。副作用も少なからずあるため、日本では保険薬として認可されていませんが、重症ニキビには有用であり、わが国でも医師の適切な処方のもとで保険薬として使えるようになることを願っています。
by kobayashi-skin-c
| 2013-11-28 19:23
| 「皮膚の健康教室」抄録
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