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2015年8月教室 『北欧の街角から -乾癬の克服に向けたメッセージ-』
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第4回世界乾癬・関節炎会議が、7月8-11日、スウェーデンのストックホルムで開催されました。開会式の冒頭、主催者のIFPA 会長(International Federation of Psoriasis Associations 国際乾癬患者組織連盟)、Lars Ettarp氏が開会宣言を行いました。会議の合言葉は、Hope! Action! Change! (「希望」「行動」「変化」)。昨年5月24日の国際連合の「World Health Assembly 世界健康会議」においてWHOの提案「乾癬」が採択されたことは、乾癬の患者のみならず、乾癬にかかわる人すべてにおいて大きな前進でした。今回の世界会議の参加者はこの採択を重く受け止めて、行動を起こさなくてはなりません。
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これが国連で採択された動議です。
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10月29日のWorld Psoriasis Day(世界乾癬デー)には「Hope, Action, Change」を標語にみんなで参加しましょう。
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今年の会議で大きく注目された二つのテーマについて報告しましょう。一つは、やはりJames G Krueger先生(米国ロックフェラー大学)の研究、治療法の開発でしょう。

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乾癬が起こっている皮膚(乾癬皮膚)と、乾癬が起こっていない皮膚(正常皮膚)を比べると、いろんな違いが見えてきます。皮膚の中でどんな遺伝子が活発に動いているのか、逆に不活発なのかを乾癬皮膚と、正常皮膚で調べてみました。比較できる遺伝子の数が、2001年には159遺伝子でしたが、2010年には4175遺伝子にまで増えましたので、乾癬の発症メカニズムをより精細に調べることができるようになったと言ってよいでしょう。分かったことは、

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皮膚の防御力(免疫反応)で大切な一つの流れである「Tip-DCs(抗原提示樹状細胞) - TNF刺激」の主要経路=IL-23 & IL-17が、乾癬の発症に一番大きな役割を担っている、と実験結果が示しました。このことから、IL-23 & IL-17の働きを皮膚で抑えることができれば、かなりピンポイントに乾癬を治すことができると言うことです。IL-17をおさえるバイオロジックス(生物学的製剤)はすでに市販されて、その効果の目覚しさを実感されている方も多いと思います(日本が世界で一番早くこのバイオロジックスが使えるようになりました。商品名「コセンティクス」)。

IL-23をおさえるバイオロジックスは、もっと効くようです。
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まだ開発の初期段階ですが、1回の皮下注射で6ヶ月にわたって乾癬がほとんど消える効果が得られています。現在3種類の抗IL-23バイオロジックスの開発が進んでおり、いずれも既存のバイオロジックスよりも効果が優れているようです。
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Krueger先生の講演はたいへんエキサイティングでしたが、他のバイオロジックスと同じように、これからも長期的な副作用、治療費の問題について注意する必要があります。既存のバイオロジックスに比べ、その効果が、乾癬の発症メカニズムをピンポイントに抑えるため、副作用はより少ないことが期待されます。抗IL-23薬の登場が待たれます。


「psoriasis is more than skin deep」、「乾癬は皮膚の深さだけにとどまらない」の言葉は、乾癬は「皮膚だけではなく」、「精神的にも日常生活面にも、そして経済的にも大変である」ことを表現する言葉としてよく使われてきました。さらに乾癬が「皮膚の深さだけにとどまらない」さまざまな事実が明らかにされています。
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関節炎の頻度が高く、皮膚のつらさだけではなく、指が曲がらない、足が腫れていたい、腰が重いなど日常生活に重大な影響を与えます。眼にもブドウ膜炎が起こることがあります。さらに、心・血管系、腎臓の病気ともかかわり深いことが明らかにされました。そしてメタボとのかかわりが何よりも重大であり、予防、未病のための対策が必要です。寿命にもかかわってくるからです。
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内臓疾患、メタボとの関連は、乾癬が重症であるほど明確です。
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乾癬のコントロールを積極的に行うことで、内臓疾患を予防することが期待されています。さらにメタボ予防が大切です。米国国立衛生研究所(NIH)の心臓血管部門チーフ、Mehta先生は、次のように述べられました。
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特別なことではない、すべての乾癬患者さんは20歳を過ぎてからは健診を受けなさい、そしてメタボにならないよう日々努力をしなさい、ということです。「分かっちゃいるけどやめられない」では、「いかんのですぞ」。


会議場の一角に絵や彫刻が展示されていました。世界各国の乾癬患者さんが自らの気持ち、体験を描き出したものです。大きな感銘を受けました。3点を紹介します。
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「Floriasis」とはなんと美しい言葉でしょう。皮膚の表面に現れた「乾癬=psoriasis」ではなく、「花=floriasis」。その花に自信を持ちたい自分もある、でも打ちひしがれる自分もある、そんな気持ちを表した、これは作者自身のポートレートでしょうか。この展覧会を企画したAbbie(製薬メーカー)に脱帽。


この世界会議のすべてを記述することは不可能です。3度目の今回、あらためてこの世界会議の意義を問うとすれば、この会議は「世界の患者会が主催をした」ということ。「主役が患者」であるということ。医療の本質が「乾癬」をつうじて体現されていると、深く感銘を受けました。日本から、日本乾癬患者連合会を代表して、神奈川県乾癬患者友の会の奥瀬さんが参加されました。各国の患者会の人たちと積極的に交流されている姿をみて、日本からも世界に向けて、乾癬患者の声や希望が発信されていくときが遠からずくることを予感しました。
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会議のパーティーはストックホルム市庁舎で開かれました。毎年ノーベル賞受賞者の公式晩餐会・舞踏会が催される場所です。左からIFPA会長のLars Ettarp氏、小林衣子、奥瀬さん。
by kobayashi-skin-c | 2015-08-31 19:07 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
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