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2018年2月 『ドロミテ,トレ・チーメ Tre Cime di Lavaredo, Dolomiti, Italia』
アルプスきっての北壁、岩塔 "Tre Cime di Lavaredo(トレ・チーメ)"がドロミテ、コルチナ・ダンペッツォの北東方向にある。バックカントリースキーで、トレ・チーメ一周に挑んだ。
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3つの岩塔がほぼ垂直に立つ。左端がCima Piccola 2857m、中央がCima Grande 2999m、右がCima Ovest 2973m。Cima Grandeの標高は長らく3003mとされていた。現在も地図によっては3003mと表記されている。わが国の剱岳とまったく同じ数字の変遷を遂げている。「山は高きが故に貴からず」とは言うものの、この素晴らしい山山に対し、岳人は洋の東西を問わず、3000mにこだわったのだろうか。初登は1869年。Cima Grande北壁の初登攀は1933年。エミリオ・コミッチらが3日間をかけて登攀した。


今回のドロミテ、コルチナ・ダンペッツォ行きの半分の目的は、この山を廻るバックカントリー・スキーに挑むことだった。日本から持参したスキーは、バックカントリー用一式を選んだ。だから、ベニスの空港にスキーが届かなかった時には、けっこう落ち込んだ。
 と意気込んではいたものの、現地に着くまでトレ・チーメのバックカントリースキー情報は皆無であった。街のトラベラーズ・インフォーメーションではまったく話しにならなかった。街の散歩中、ふと目にとまったのが、この看板。
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「おお、コルチナ・ダンペッツォにもAGノマドがある」のかと思った。オフィスに入ると、いかにも山屋さんといった風情の人が対応してくれた。"Round Tre Cime, back country ski? OK, OK, perfect!" の二つ返事。このチーフガイドと思しき親分、すぐに携帯電話で仲間のガイドに連絡。「2月18日8:00、ホテルにEdoardoという名のガイドが迎えに行く。いや8:30だ。料金は一人120€、ビーコン、シャベル、プローブは無料でレンタルOK、支払いはツアーが終わってオフィスに来い」との指示、狐につまれたような気持ちであったが、飛び上がるほど嬉しかった。

山小屋三連泊のあと、天気は下り坂。インターネットでみる天気予報は、サイトごとに、一日ごとにコロコロと変わる。結局、17日の夜からちらちらと雪が降り始め、18日の朝も雲が低く垂れ込め雪が降り続いていた。「トレ・チーメが見えない?!」、「パウダースノーか!?」。8:30、ホテル前には20代と思しき好青年が待ち受けていた。"Paulo"と名乗ったか、なんと名乗ったか、"Edoardoが病気で、代わりに今日のガイドを務める"とのこと。Pauloかどうかはっきりしないまま"Paulo"と声を掛け続けたが、帰国してから届いた彼のメールには"Pier"とあった。

彼の車に同乗し、まずはLago Misurinaミズリーナ湖へ向かい、湖畔の駐車場からはスノーモービルに乗り換えてRifugio Auronzoまで。
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そこからスキーにシールを貼って、いよいよトレ・チーメを廻るバックカントリーへ。しかし、「トレ・チーメはどこ?」の状態。雲が低く、霧でもやっている。最初からいきなり吹きさらしの急斜面。おまけに風に吹き飛ばされたのか、下はほとんど氷斜面。スキーがスリップして登りづらい。おまけにPauloの歩調は速く、息切れをしてくる。"Slowly, Paulo"と頼む。しばらくは視界のないまま、左側にあるであろうトレ・チーメの急斜面をトラバース気味に登っていった。ときおり鋭い山の稜線が顔を出す。
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広い雪原を歩くころ、Pauloが "Cima Piccola!"と声を上げた。
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いつの間にか、登山口のトレ・チーメ南面から、Cima Piccolaが立つ東面まで回りこんでいたのだ。霧が抜けてきて、Piccolaの向こうにGrandeも見えるようになってきた。少し急登が続いてからスキーシールをはずして滑走準備。かなりの急斜面だ。東面では思っていた以上の深さの新雪。ヤッホー!と叫びたくなるが、Pauloは「自分が先に滑るが、自分のトレースより左側には入らないように、一人ずつ合図のあとから滑り出すように、雪崩が危ない」の指示を出す。Pauloはたくみにターンして雪を蹴立てる。自分の番、やっぱり雪は重かった。思うようにスキー操作は出来なかった。とにかく「慎重に、慎重に」と自分に言い聞かせる。
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さらに、しばらく滑り降りるとトレ・チーメ北面に出た。なんと、トレ・チーメの全貌が眼前にある。言葉を失った。
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黄色味を帯びたドロマイトの岩壁が垂直に立つ。左側からCima Piccola, Cima Grande, Cima Ovest。アルプス屈指の北壁。

ふたたびシールを貼って歩き始めるが、左側ばかりを見ながら歩き、写真を撮る。Pauloにどんどん遅れるが、Pauloはあまり気にしていない。でも結局のところ、この写真、すべてPauloが撮影して日本に送ってくれたもの。感謝、感謝である。
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西面に回り込み、登山口方向が見えるころ、最大斜度のトラバース斜面にさしかかった。Pauloは急に慎重になって、幾度となく斜面をチェック。トレ・チーメ西面は、風で飛ばされたのか雪は固い氷面にうっすらと乗っかっただけで、すぐに落ちていく。ところどころには岩も露出している。Pauloは "Long walking, but safe. We had better to avoid the traverse" とのこと。もちろん従う。Long walkでも、その分たくさんトレ・チーメを見れるのだから異存はなかった。

もう一度北面に戻り、北西方向に雪原を横切って、深い深い谷に向かって新雪の急斜面を滑り降りた。ここには比較的深いパウダーが待っていた。ちょっと危ない滑りもあったが大満足。
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谷の底に下りてからは長い長いお帰りコース。巨岩がごろごろと転がる沢すじを、岩をぬうように下っていった。そしてトレ・チーメを最後に望むことができる地点で、Pauloが写真を撮ってくれた。トレ・チーメはまた霧にかすんでいた。

"ありがとう、Paulo君、いやPier君"。"ご苦労さん、衣子さん"。
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「やあコルティーナ、君はドロミテの女王だ!」の言葉を胸に刻む。お別れだ。

by kobayashi-skin-c | 2018-03-08 10:31 | PHOTO & ESSAY | Comments(0)
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