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2020年11月2日 『乾癬の仕組み -コロナと免疫-』

2020112

28回豊富温泉湯治ツアー学習懇談会

『乾癬の仕組み-コロナと免疫-』

乾癬の会相談医 小林 仁(小林皮膚科クリニック)

 2020年は人類にとって忘れられない年となるでしょう。将来私たちの孫の孫の世代になっても、歴史の教科書には「2020年の新型コロナウイルス」のことが書かれていることでしょう。そしてその教科書には「人類の英知と協調により無事乗り越え、2021年夏には東京でオリンピックを開催した。」としめくくられていることでしょう。

 乾癬の会でも創立して28年の間で、初めて総会、学習懇談会が中止となりました。今回の豊富温泉湯治ツアーも開催すべきか、中止とすべきか、役員の皆さまはずいぶんと悩まれました。「こんな時だからこそ、会員の皆さまに明るい話題を届けたい」の思いを強くして、豊富町、豊富温泉に相談したところ、豊富温泉ふれあいセンターでも、そしてニュー温泉閣ホテルでも、細心の注意をはらって皆さまをお迎えしたい、との心強い言葉をいただき、今日のこの湯治ツアー、学習懇談会にいたった次第です。役員の皆さま、そして豊富町、温泉の皆さまに、篤く感謝する次第です。

 前置きが長くなりましたが、つい先日の1029日は「世界乾癬デー」でした。日本各地で、世界各地で、乾癬の仲間が工夫をこらしながら乾癬のことを、乾癬で悩む人がいることを世界に発信しました。今年の合言葉は「Psoriasis, Be Informed」。私なりに解釈すると「もっと知ろう乾癬のことを、もっと知ってほしい乾癬のことを」となるのでしょうか。

さて今日の話題は、

『乾癬の仕組み-コロナと免疫-』

20202月、山とスキーの好きな私と家内は、イタリアのドロミテ山塊にあるコルチナ・ダンペッツォに行っておりました。3000m級の岩山が連なり、長大なスキーコース、そしてかわいい村々のある素晴らしいところです。コルチナ・ダンペッツォでは世界的なスキー大会も数多く開催されており、1956年冬のオリンピックで日本人選手(猪谷千春)が初めてメダルを獲得した場所でした。2026年冬季オリンピックが再び開かれる予定ともなっています。

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私たちが山の上でスキーを滑っているころ、その雲海の下、イタリアの町では恐ろしいことがまさに始まろうとしていました。私たちが日本を出発したのは、ダイアモンドプリンセス号の新型コロナ集団感染がニュースとなっていた時でしたが、ヨーロッパでの感染はまだ伝えられていませんでした。(グラフの左、矢印の間イタリアに滞在)
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山中でスキーをしていた私たちは何も知らず、山を下りてドロミテ最後の日、コルチナ・ダンペッツォのホテルではじめてイタリア国内で新型コロナによる死者が出て、すぐ近くの町では「ロックダウン」が始まったことをホテルスタッフから聞かされました。翌日コルチナ・ダンペッツォからベニスへバスで移動し、ベニスに2日間滞在した後、飛行機で帰国しましたが、あと数日遅れていたら帰国もままならなかったと思います。

 なんとか無事帰国しましたが、北海道では第一波の感染流行を迎え、緊急事態宣言が鈴木知事より発出されました。日本国内でも新型コロナ感染はじわじわと増え続け、志村けんさんの死亡が、全国民に大きな衝撃を与えました。

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新型コロナ感染症は、201912月ごろから中国武漢で原因不明の重症肺炎患者があいつぎ、注意喚起されたのが始まりでした。

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20201月には、

原因が新型コロナウイルスであることをWHO(世界保健機構)が発表しました。そしてまたたく間に世界中に拡大していきました(パンデミック)。コロナウイルスにはいくつものタイプがあり、「かぜ(風邪)」の多くがヒトコロナウイルスにより感染します。近年SARSMERSといった人由来ではない新興コロナウイルス感染が世界をおびやかしました。今回の新型コロナウイルスではまだ結論は出ていませんが、SARSMERSと同じように動物のウイルスが人に移ったものと推測されています。今までも、そしてこれからも、次のような要因で、本来は人の感染症ではなかったウイルスが人類をおびやかすことが懸念されます。

何故、動物の病原体が人に感染するようになったか

  • 開発により、どんどんと人が野生動物に近付いていった。

  • 開発により、野生動物の棲家が減少し、都市に近付いてきた。

  • 野生動物を売り買いする市場が、大都市の真ん中に存在するようになった。

  • 本来は野生動物で生きていたウイルスが、野生動物の減少により、生きる場所を人に移行させた。

    おそらくは中国奥地の限られた地で動物に寄生していたウイルスが大都市武漢に持ち込まれ、それがあっという間に世界中に拡散しました(飛行機による人の移動)。現代の人間文明に警鐘を鳴らすような出来事とも言えるでしょう。

    世界の感染者数、我が国の状況

    現況を表でお示しします(202011月の学習会当時はもっと少ない数字でした。その後に第3波の荒波が押し寄せました)。

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    新型コロナの症状は、

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    ほとんどが「かぜ」と同じ症状ですが、注意すべきはその経過です。「かぜ」症状だけで終わる人が大半ですが、なかに呼吸困難が急速に進み、人工呼吸器が必要になるほど重症になる人がいることです。

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    重症化については、皆さまご存じのように年齢がもっとも大きく左右します。残念ながら、ここにいる半数以上の方は重症化の要素が高いといえますね。

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    病院や高齢者施設でクラスターが起きやすく重症患者が多いのも年齢が主な要因です。年齢以外にもさまざまな合併症も影響します。

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    乾癬は重症化リスクではけっしてありませんが、注意は乾癬の方が合併しやすい糖尿病、高血圧、心血管疾患、肥満です。日頃からメタボにならないよう摂生することが重要ですね。重ねて、乾癬自体は重症化リスクではありませんが、もう一つ皆さまが心配されているのは「お薬」のことだと思います。乾癬の治療薬には免疫抑制作用を持つものがあります。注射治療(生物学的製剤、バイオロジックス)、シクロスポリン、メトトレキサートなどですが、今までの解析調査で、これらの薬は重症化リスクではありません。現在免疫抑制薬で治療中の方もおられると思いますが、自己判断での中止はかえって危険です。かならず主治医に相談してください。新型コロナの重症化には「免疫の暴走」が大きくかかわっているからです。未知のウイルスと闘う人体の中で、制御がきかない免疫力が暴走し、自分の体をかえって傷つけてしまうのが命取りとなっていることがわかっています。「免疫の暴走」はまたのちほどお話ししましょう。

    新型コロナウイルス感染症の診断は、

    まず症状があってはじめて医療機関を受診しますが、PCR検査、抗原検査が決め手となります。

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    テレビのニュースでさかんにPCR検査が報道されるため、PCR検査の必要性ばかりが強調されているようですが、新型コロナに感染している人でも陰性に出る場合があります。そして、検査して陰性だから「もう大丈夫」というわけでは決してありません。測りなおしたら陽性という場合はしょっちゅうで、さらにPCR検査はあくまで「今、ウイルスのかけらがみつかった」というだけで、それこそ毎日でも検査しなければ安心できない、ということになってしまいます。したがって誰もかれもがPCR検査を求めるというのは間違いです。

    新型コロナ感染症の治療

    残念ながら特効薬はありません。

  • 軽症の場合は経過観察のみで自然に軽快することが多く、必要な場合に解熱薬などの対症療法を行います。

  • 呼吸不全を伴う場合には、酸素投与やステロイド薬(炎症を抑える薬)・抗ウイルス薬(アビガン)の投与を行い、改善しない場合には人工呼吸器等による集中治療を行うことがあります*。

  • こうした治療法の確立もあり、新型コロナウイルス感染症で入院した方が死亡する割合は低くなっています。

  • 発熱や咳などの症状が出たら、まずは身近な医療機関に相談してください。

    *集中治療を必要とする方または死亡する方の割合は、約1.6%(50歳代以下で0.3%、60代以上で8.5%)

    特効薬の開発が望まれますが、今は予防が最大の武器と言えるでしょう。しかし、これがなかなか難しく、さまざまな情報がマスコミを通じて行きかい、どれを信じてよいのか混乱されている方も多いと思います。偏見的な見方ですが「民放テレビ」は視ないにかぎります。ここに紹介するスライドはすべて厚生労働省のホームページ記事を引用したものです。ニュースもNHKにとどめておきましょう(個人的見解です)。

    新型コロナの予防(厚生労働省ホームページから引用)

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    昨日NHKの「所さん!大変ですよ」を視ていたら、新型コロナを恐れるあまり「他人と会わない!外出しない!」を実践する高齢者に

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    それのみならず筋肉の衰え、さらに人との会話がなくなりのどの筋肉まで衰えて「誤嚥性肺炎」まで増えているとのこと。これはこれで恐ろしいとも思います。

    こんなデータもあります。

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    そして2020年はインフルエンザ死者数、交通事故死者数は激減し、死亡者全体は減少しているようであるとのことです。

     私なりのコロナ予防策は「正しい知識をもち、いたずらに恐れない」。そして「道徳を守る」。

  • 三密 「密閉・密集・密接」を避ける

  • 手 洗 い

  • 咳エチケット・マス ク

  • 打ち勝つには、健康な体!

以上に尽きると思います。そして一番大切に思っていることは「健康な体!」「コロナに打ち勝つ免疫力」です。

免疫とは、

  • 「疫(病気)から免れる」

  • 体内に存在する免疫細胞が、細菌やウイルスなどの外敵の侵入を防いだり、体内で発生した有害物質を排除したりする自己防衛機能

  • 「外敵の発見」「外敵の情報の伝達」「外敵の攻撃」

  • 「外敵」と「自己」の峻別

  • 「自然免疫」と「獲得免疫」

    下の図のようにして外敵から身を守っているのです。

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    皮膚は人体と外界をへだてる「一枚の皮」ですから、人体を守る最前線として

  1. 物理的な防護

  2. 自然免疫

  3. 獲得免疫

という3つの強力な免疫力を備えています。怪我をしても、ばい菌・ウイルスが入ってきても、皮膚は闘いそして回復します。

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ところが、闘いすぎてしまうことがあります。ブレーキが利かない「皮膚の免疫の暴走」です。

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乾癬です。

 乾癬の皮膚では、

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傷ついた怪我の修復をするときと同じように、通常の約10倍の早さで皮膚を作ろうと頑張ります。その頑張りは免疫細胞から送られてくる指令(サイトカイン、ケモカインなど)によっておこります。尋常性乾癬では皮膚の中だけで「免疫の暴走」が起こっていますが、関節症性乾癬では関節の中でも「免疫の暴走」が起こっています。また難病(特定疾患)に指定されている膿疱性乾癬では、皮膚の中だけではなく全身に「免疫の暴走」が広がり、高熱、全身倦怠感といった重症の状態となります。

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なぜ乾癬の皮膚の中で免疫の暴走が起こるのかは、まだわかっていません。けれどもこの免疫の暴走をくいとめる薬が、乾癬を劇的に良くしてくれることは、皆さまご存じのとおりです。バイオロジックス(生物学的製剤)です。

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2010年から使われ始めたバイオロジックスは絶大な治療効果を発揮し、現在では10種類もの薬剤が発売され、選択の範囲も広がっています。「ドラえもん」の乾癬治療「なんでもポケット」はずいぶんと大きくなったものです。

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ところで、このバイオロジックスが「新型コロナ感染症」治療にも使われているのをご存知ですか? 前述したように、乾癬皮膚で起こっている「免疫の暴走」には免疫細胞から出る指令が大きなカギとなっています。そのカギとかぎ穴がサイトカイン、そしてそのレセプターであり、バイオロジックスはサイトカインの働きを抑えたり、かぎ穴を閉じてしまうことで、「免疫の暴走」を食い止めます。新型コロナ感染症で起こっている全身の「免疫の暴走」(免疫の嵐=サイトカインストーム)にも実はこのカギと、かぎ穴がかかわっているため、バイオロジックスが治療に役立っているのです。

 最後になりますが、科学・医学の進歩は目覚ましく、乾癬の原因究明、新薬の開発が急速に進んでいます。バイオロジックスのみならずさらに新しい治療法もまもなく登場してくることでしょう。

 2020年、人類は新型コロナ感染症に見舞われましたが、人類の英知によりきっと乗り越えていくことでしょう。ワクチン開発がここまで早く進むとは驚きでした。と同時に、科学の力にさらに心服を寄せるものでありました。人類みんなが等しくその恩恵にあずかることができるよう、世界の人々が協調して歩んでいくことを心から願っています。

 第28回豊富温泉湯治ツアーも、のちのちきっと語り継がれることとなると思います。この困難の中、企画・運営された役員の皆さま、ご苦労さま、ありがとうございました。そして豊富町、豊富温泉関係各位に心から感謝申し上げます。


by kobayashi-skin-c | 2021-03-12 10:56 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
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