相談医 小林 仁(小林皮膚科クリニック)
はじめに 昨年の湯治ツアーはコロナ禍のため、残念ながら中止となってしまいました。その第29回湯治ツアーの学習懇談会の講演として「乾癬は豊富温泉で何故良くなるか」を行う予定でした。陽だまり85号でその講演要旨を掲載いたしました。 本日の第30回目の節目の湯治ツアー学習懇談会には、ぜひ皆さまに直接聞いていただきたくて「豊富温泉が、なぜ効くか」をお話ししたいと思います。この一年間で新たな情報も加わりましたのでお聞きください。
乾癬の新薬Vtama Vtamaは、今年5月に米国で発売になった乾癬に特化された新しい外用薬です。その成分は「タピナロフ」。効果については、インターネットに次のような写真が掲載されています。 12週間で左の乾癬が右の皮膚のように、症状がほとんど消えています。いままで使われていたステロイドとも活性型ビタミンⅮ3とも全く違った外用薬です。米国での試験結果について、これもインターネットからの情報ですが、効果、副作用について次のようにまとめられています。 英語の資料なのですこし分かりづらいかもしれませんが、340人を対象としたPSOARING1試験、343人を対象としたPSOARING2試験ともに、VTAMAはプラセボのクリームに対し明らかに高い効果を示しました。ほとんど~完全に乾癬が消えた人の割合は、PSOARING1試験で36%、PSOARING2試験で40%でした。 副作用の頻度が高いように感じますが、軽微なものです。プラセボに比べ明らかに多いのが「Folliculitis(毛包炎、ふきでもの)」20%、続いて「Contact dermatitis(かぶれ)」7%、「Headache(頭痛)」4%、「Pruritus(かゆみ)」3%でした。 わが国でもこの新しい外用薬の試験が、乾癬患者さん、アトピー性皮膚炎患者さんを対象に行われ、小林皮膚科クリニックも参加しました。乾癬とアトピー性皮膚炎の患者さんともに、たいへん優れた効果を確認することができました。現在結果の解析中なので詳しくは述べられませんが、近いうちに市販されることは間違いないと思います。ご期待ください。
芳香族炭化水素 さて、この商品名VTAMA、一般名タピナロフとはいったいどんな薬なのでしょうか。陽だまり85号で概略はお話ししましたが、タピナロフはステロイドでもなくビタミンD3でもなく「芳香族炭化水素」の一つです。 芳香族炭化水素は自然界に多く存在します。豊富温泉の油分にも含まれています。自然界だけではなく、人間の体の中でも食事の栄養成分が形を変えて芳香族炭化水素となります。その他にもいろんな用途で化学的に作られています。人間の体が芳香族炭化水素に触れると、私たちの細胞には芳香族炭化水素受容体があり、細胞・体の働きに変化が生じます。体の恒常性維持や、免疫力を高めるなど体の防御のために働きます。 芳香族炭化水素が人体に及ぼす影響は良いことばかりではなく、芳香族炭化水素の種類によっては毒(カネミ油症、免疫抑制など)となったり、発がん物質の一つとなったります。 VTAMA(タピナロフ)は昆虫の殻から見つけ出された芳香族炭化水素の一つです。現在までの研究により、乾癬で起こっている免疫の暴走(IL17など過剰なサイトカイン産生)、活性酸素ストレスの亢進、皮膚バリア機能の低下を改善することが分かり、乾癬の改善につながると考えられます。
豊富温泉とタピナロフ、芳香族炭化水素 ここまでの説明で、皆さまお分かりいただけましたでしょうか。豊富温泉で湯治すると乾癬も、アトピー性皮膚炎もカサカサや赤みがとれ、元の皮膚に戻っていきます。豊富温泉の油分に含まれる芳香族炭化水素(タール成分)が抗炎症作用を発揮しているのですね。もう一つ、これは私自身も経験することですが、豊富温泉で湯治した後は肌がつるつるになります。油を塗るからだけではなく、芳香族炭化水素(タール成分)が皮膚バリアの機能を回復させているからなのですね。豊富温泉で湯治するとタピナロフと同じ効果が得られていたのです。納得でした。 もう一つ、タピナロフの副作用として挙げられていた「毛包炎」。長く豊富温泉で湯治された方は経験されたと思います。顔などにニキビのようなものが現れます。また時には豊富温泉につかるとかゆくなるという方がいます。これもタピナロフと同じ副作用です。 30年前、第1回目の湯治ツアーで私は豊富温泉に出会いました。その時のことは忘れられません。それ以来抱き続けていた「どうして豊富温泉はこんなに効くのだろう?」という30年に及ぶ私の疑問は、タピナロフからの情報を得て、少なくとも私の頭の中では「そうなんだ。だから豊富温泉は効くのだ!」と、氷解したのです。すごく嬉しくなりました。 さらに豊富温泉効果について科学的に証明したいのですが、なかなか一筋縄ではいきません。でも恐らく、きっといつの日か解明されることでしょう。30年間お世話になった豊富の皆さま、30年間湯治ツアーを続けてこられた乾癬の会の皆さま、30年間毎年みんなと一緒にツアーに参加した私。まぶたに浮かぶたくさんの光景を思い浮かべながら、大好きなこの歌を歌いたいと思います。
by kobayashi-skin-c
| 2022-12-25 17:06
| 「皮膚の健康教室」抄録
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