皮膚の病気でつらいのが、何といっても「かゆ~い!」、かゆみ(搔痒)。
ところが意外と「かゆみ」のメカニズムは分っていません。最新の情報を お届けすると同時に、かゆい時の対処法、そして昨年の暮れに保険適応 (発売)となったばかりの新しい薬剤について解説しました。 「かゆみ」がどのように起こり、どのようにして感じるのかをめぐる研究が活発になっています。まず「かゆみ」は、皮膚の表皮直下にある「かゆみ神経受容体」で「かゆみ刺激」をキャッチします。その刺激は神経C線維を伝わって、脊髄視床路→視床→大脳皮質へと伝わり、「かゆみ」として感じます。以前には、「かゆみ」は「痛み感覚の弱いもの」として考えられていましたが、「かゆみ刺激」も「神経経路」も「痛み」とは違うものであることが明らかになりました。さらに、「かゆみ刺激」、「かゆみ神経経路」にかかわる様々な物質、神経ホルモンなどが明らかになるとともに、「かゆみ」を抑制する新しい薬剤の開発が進んでいます。 しかし、「かゆみ」の全容解明にはまだまだいたらず、適確に「かゆみ」を抑えることができません。たとえばじんましん(蕁麻疹)では、そのメカニズムがある程度簡単に説明されることから(上図を参照)、「かゆみ刺激」物質であるヒスタミンをブロックする薬剤を内服すると、蕁麻疹の「かゆみ」はピタッとおさまりますが、アトピー性皮膚炎のメカニズムは複雑であり、もっとも辛い症状である「かゆみ」をなかなか抑える手段がありません。 「かゆみ」治療には次のような手段があります。 1.皮膚の炎症を抑制する(最も重要かつ効果的) ①ステロイド外用 ②タクロリムス外用 ③シクロスポリン内服 2.抗ヒスタミン薬 3.冷やす 4.スキンケア 5.マイナートランキライザー 6.κ-オピオイド刺激薬 もっとも効果的な「かゆみ」治療は、 1.皮膚の炎症を抑制する(最も重要かつ効果的) ①ステロイド外用、②タクロリムス外用 ③シクロスポリン内服、④紫外線照射治療など ・炎症部位ではリンパ球、好酸球から放出されるIL-2, IL-31, TNFαなどが痒みを起こす。 ・T細胞機能を抑制するだけでも(タクロリムス、シクロスポリン)、痒みは軽減する。 ・神経原性炎症(サブスタンスPなど)も抑制する。 次に有効な「かゆみ」治療が、 2.抗ヒスタミン薬 ・最近は抗アレルギー薬(第二・三世代抗ヒスタミン薬)が主体。抗ヒスタミン作用に加え、多彩な抗アレルギー作用、抗炎症作用も有する。 ・継続して内服したほうが効果が出る(アトピー)。 ・副作用が少ない。抗コリン作用がなく、緑内障、前立腺肥大に悪影響を及ぼさない。 ・効果・副作用には個人差があるので、1~2週間使って効果がない場合は変更する。 抗ヒスタミン剤は開発された年代により次のように分類されます。第二世代以降は抗アレルギー剤とも呼ばれています。新しいほど、かゆみ抑制効果が高く、眠気・だるさなどの副作用が少なくなっています。 第一世代 レスタミン、ペリアクチン、アタックス、ホモクロミン、ポララミン、タベジール、ニポラジン/ゼスラン 第二世代 ザジテン、アゼプチン、ダレン/レミカット、セルテクト 第三世代 アレジオン、ジルテック、アレロック、アレグラ、タリオン、エバステル、クラリチン、 ・眠気の注意がないのは、アレグラ、クラリチン。 ・「危険を伴う機械の操作する際には注意」:アレジオン、タリオン、エバステル。 ・他のすべては、「危険を伴う機械の操作には従事させない」こととなっています。 ・妊婦では、ポララミン、タベジールは比較的安全。 ・肝機能障害者では、アレグラ、タリオン。 ・腎機能障害者では、アレグラ、エバステル、ダレン。 xyzal(ザイザル) 約10年の間わが国では、新しい抗ヒスタミン剤の発売がありませんでしたが、昨年12月「xyzal(ザイザル)」が発売されました。期待される薬剤です。 そのほかの「かゆみ」治療として 3.冷やす ・冷た過ぎないほうがよい。 4.スキンケア ・ドライスキンでは神経終末が皮膚表面まで伸長。 5.マイナートランキライザー 6.κ-オピオイド刺激薬 ・μ-オピオイド受容体は痒みを増強し、 κ-オピオイド受容体は抑制する。最近κ-オピオイドアゴニスト(ナルフラフィン[レミッチ])が開発された。 「かゆみ」を感じる大脳皮質で中枢性かゆみを抑制する新しい薬剤です。今までの「かゆみ」治療とはまったく違った種類の薬剤であり、その大きな効果が期待されています。ことに腎臓病のため人工透析を受けている方々の多くが、強い「かゆみ」で苦しんでおられますが、今まで抑えることができなかったそのつらい「かゆみ」を抑えることが確認されました。現時点で「レミッチ」は透析中の腎不全の方のみに保険適応となっています。今後、ほかの皮膚疾患(たとえばアトピーなど)でも使えるようになることが期待されます。 「かゆみ」は「引っ掻かざるを得ない『不快な感覚』」と定義されています。ところが、『不快』とばかりは言えないところに、「かゆみ」の奥深さがあります。それはかゆいところを掻くと「気持ちいい快感」が得られる所にあります。だから「掻く」のってやめられないんですよね。そもそも「かゆい」→「掻く」は反射的におこる当たり前の反応・動作なのです。動物だって足を使って、ときには口・くちばしを使って掻く動作を行っています。私たち動物は、昔から昆虫との戦いを続けています。蚊、ブヨ、ダニ、ノミ、・・・・・、最近でこそ防虫剤の発達で少なくなってきていますが、昆虫からわが身を守る必要があります。昆虫が媒介する病気もたくさんあります(たとえば日本脳炎、ウエストナイル病、マラリア、デング熱、ライム病、などなど)。それから守るのが「引っ掻く」ことなのです。引っ掻いて蚊を射止めることもできますし、引っ掻いて伝染性の病原体を取り除いています。 なのに皮膚科の病院に行くと、「引っ掻かないでくださいネ」、「引っ掻くから治らないのですよ」と耳にたこができるぐらい、みなさん注意されていませんか。無理ですよね、引っ掻くのを我慢するなんて。 さてさて今日の健康教室の結論、「かゆみ」メカニズムの研究から新しい治療法も開発されています。しかしながら、まだまだその全貌は明らかにされていません。確実に「かゆみ」を抑える手段はまだありません。「かゆみどめ」の薬なんてまだこの世の中にありません。でも、ひっかいて皮膚病を悪くさせることも事実。 「かゆみ」を和らげる工夫を行いながら、それでもかゆい時、 「引っ掻いてください、でも皮膚に優しくね」 #
by kobayashi-skin-c
| 2011-05-14 23:35
| 「皮膚の健康教室」抄録
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3月晦日前日、春の大雪を訪れた。
好天に恵まれたこの日、空は真っ青に晴れわたり、まだ雪に覆われる大雪の山々は真っ白に輝いていた。スキーを担いで目指すは大雪黒岳山頂。 早朝に札幌を出発し運転すること2時間。大雪の登山基地、層雲峡温泉に近付くと真っ白な峰々が眼前に迫ってきた。 途中、双瀑台に立ち寄った。双瀑とは、大雪の峰々に発した水の流れが、石狩川で削られた深い谷間の層雲峡に一気に流れ落ちる二つの名瀑布(流星の滝、銀河の滝)のこと。真っ青な空と白い雪、黒い岩壁のコントラストがみごとだった。夏と違い、人っ子一人いない静寂の世界。 流星の滝はまだ凍ったままのアイスフォール。 層雲峡温泉からロープウェーで一気に五合目へ。ロープウェーの車窓から峰々が間近に迫る。左端が黒岳、右に桂月岳、凌雲岳、上川岳が連なる。 黒岳五合目は、まだ新雪の深雪だった。エゾマツには新雪の綿帽子。 スキーをザックにくくり付け登り始める。曲がりくねったダケカンバの枝が”よく来たね”と手招きをする。しかし予想以上の深雪にラッセルを強いられ、すぐに息が上がってしまう。残念ながらたどる踏み跡はひとつもない。 ダケカンバの向こうには真っ白な北大雪の峰々が見渡せる。 息を切らせながらやっと黒岳山頂。夢のような白銀の世界が眼前に広がった。右から凌雲岳、北鎮岳、間宮岳、そして左端が北海岳。 左から烏帽子岳、小泉岳、そして白雲岳。 深い谷間の向こうに、左から北鎮岳、凌雲岳、愛別岳、上川岳が美しい。 黒岳頂上からさらに黒岳石室を目指した。 黒岳石室はかろうじて屋根だけがぽつんと見えていた。 #
by kobayashi-skin-c
| 2011-03-30 18:34
| PHOTO & ESSAY
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by kobayashi-skin-c
| 2011-03-23 10:32
| PHOTO & ESSAY
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2011年1月は雪も多く寒い日が続きました。2月に入ってからは穏やかな晴れた天気が続き、素敵なスキー日和を楽しむことができました。富良野スキー場からは、眼前に雪に覆われた真っ白な大雪の全景を望みながら、5キロの大滑降です。
右側の山塊が十勝連峰(右から富良野岳、十勝岳、美瑛岳、美瑛富士、オプタテシケ)、トムラウシを中央に、左側の山塊が表大雪の山々(主峰が旭岳) #
by kobayashi-skin-c
| 2011-02-22 21:07
| PHOTO & ESSAY
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でもの、はれもの、ほくろ、イボ、がん、メラノーマ、・・・・・、皮膚にはいろいろな腫瘍があります。皮膚にはどんな種類の腫瘍があるのか、どんなサインが危ないのか、勉強しました。
腫瘍とは、本来の機能(働き)、形態(かたち)を失った細胞が無秩序に増殖したもので、ヒトの命まで脅かすものを悪性腫瘍と呼び、一定の大きさでとどまるものを良性腫瘍と呼び、その中間・境界線上にある上皮内がん、中間型があります。 腫瘍のでき方には、 1.発生の段階で(母親の1個の卵子細胞に父親の精子が結合することにより、人体を形づくる60兆個の細胞にまで分裂します)、複製ミスのためDNAに変異を起こし、胎児の間に腫瘍の元ができたもの(例:ほくろ、あざ、多くの小児がん) 2.生まれてから後、さまざまな外的・内的刺激により、DNAに変異を起こし腫瘍が生じるもの、 があります。 皮膚は人体の最外層にあるため、紫外線をはじめとしたさまざまな外的刺激を受けやすいことから、加齢とともに多くの腫瘍が生じます。また皮膚は表皮、メラノサイト、免疫細胞、毛、つめ、あせ、血管、神経、筋肉、皮下脂肪などさまざまな働き、細胞があるため、じつに多様な腫瘍が生じます。生命にかかわる腫瘍が生じることも事実です。 そして、皮膚はさまざまな働きをしています。体を守る、体温を維持する、黴菌・異物を排除する、汗をかく、毛を生やす、爪をのばす、痛い・かゆい・つめたい・熱いの感覚、・・・・。そのために特殊な構造をたくさん持っています。腫瘍はそのひとつひとつから生じます。 表皮は角化細胞(顆粒細胞、有棘細胞、基底細胞)、免疫細胞、色素細胞(メラノサイト)からなり、表皮からは、脂漏性角化腫・日光角化腫・基底細胞がん・有棘細胞がん・ボーエン病・ケラトアカントーマ・疣状角化腫・疣状がん、免疫細胞からは、ランゲルハンス細胞腫(組織球症X)、リンパ球腫、リンパ腫、菌状息肉症、ATL、色素細胞(メラノサイト)からは、色素性母斑(ほくろ)・青色母斑・悪性黒色腫(メラノーマ)などの腫瘍が生じます。汗の汗腺・汗管からは、・・・・・、毛の毛包からは、・・・・・、血管からは、神経からは、筋肉からは、・・・・・・・・、実にさまざまな腫瘍が生じます。その中から、どんな腫瘍であるのか、良性なのか悪性なのか、正確に判断することは専門医でも困難なことがあります。より専門性の高い大学病院の医師にその判断をゆだねることもあります。 みなさまにとって大切なことは、自分の皮膚の変化を見逃さないこと、変化を自己判断なしに専門医の相談を早めに受けること。その参考となるよう実際の皮膚のできもの、ほくろ、腫瘍の姿を認識して下さい(健康教室ではおおくの皮膚腫瘍の実際の姿を写真でみていただきました)。 #
by kobayashi-skin-c
| 2011-02-22 20:54
| 「皮膚の健康教室」抄録
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