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2010年10月26日教室 『乾癬の最新情報 -日本乾癬学会の話題から-』
9月3-4日、山口県宇部市で第25回日本乾癬学会が開催されました。別府市城島高原のホテルで開かれた第1回乾癬研究会から四半世紀が過ぎたことになります。今回の学会を主催した山口大学皮膚科教授武藤先生も次のような言葉を、プログラムの巻頭言で述べられています。
「顧みますと、ここ十余年間に免疫学・細胞生物学はめざましい進歩を遂げ、免疫学の精緻な理論に裏付けられた生物製剤の開発・臨床応用が現実のものとなり、乾癬は不治の病ではなく、制御可能な疾患といえるようになりつつあることは、患者さんのみならず、皮膚科医にとっても大きな喜びであります。」

 武藤先生の言葉の中にあるように、今年の1月から乾癬治療の現場で使うことが可能になった生物学的製剤の登場が、この学会を特徴づけていました。昨年までは招待講演の中で、海外のデータが外国人の先生によって紹介されるぐらいにとどまっていましたが、今年の乾癬学会の一般演題では生物学製剤関連の報告がじつに25もの数に上りました。生物学的製剤の登場を待ちかねていたかのように、多くの患者さんで使用され、そしてその投与方法の工夫、効果、副作用が報告、討議されたわけです。一般演題のみならず、特別講演、シンポジウムなどで、7人の先生からの講演もありました。
 生物学的製剤の詳しい内容は、このブログ中「よくある疾患」の項を参照にしてください。さて、今回の報告の中では目立った大きな副作用もなく、生物学的製剤は安全に使われているようですが、効果の面ではかならずしも満点ではないようです。費用対効果の面からは、すべての乾癬患者さんにお勧めできる治療ではありません。いままでの外用治療、紫外線治療、内服薬による治療が大切であることに変わりありません。飛躍的に進んだ乾癬の発病メカニズムの解析から生み出された生物学的製剤ですが、かならずしもピンポイント治療にはなっていないようです。生物学的製剤が逆に、乾癬・膿疱性乾癬様の副作用を起こすこともあります。まだまだ分かっていないメカニズム、原因があるのです。
 生物学的製剤を乾癬治療の現場でいかに生かすか、そのことについて京都大学皮膚科教授、宮地先生が次のように述べられています。
乾癬治療を考える -これからの治療戦略- 「どこまで登る『乾癬』ピラミッド」
 「生物学的製剤をふくめて、いずれの治療もまだ対症的療法の域を出ていない。生物学的製剤は治療標的を次第に狭めつつあり、乾癬という高い頂きを目指してはいるものの、現実の日常診療ではいまだ麓にとどまっているのが実情であろう。・・・・・・・・、生物我的製剤が治療の選択を広げ、患者にとって大きな福音となったことは論を俟たないが、結局は、患者ごとに異なるピラミッド計画を策定し、外用剤から生物学的製剤までを併用あるいは使い分けることが皮膚科医の腕の見せ所である。」 会場からの「価値観、人生観がさまざまである患者さんと、互いにピラミッドの頂をながめながら、どのようなことをゴールとして目指すことを提案するのですか?」の質問に対し、宮地先生は「乾癬はコントロール可能な疾患であり、患者さんが幸せに生きることに障害とならないよう、いま手にすることができる最良の治療を選択することが大切である。」とお答えになっていました。

 今回の学会であったユニークな提案に、シンポジウム「乾癬治療のエキスパート育成を目指して」があります。なかでも、「乾癬患者会との関わり-患者の声を聞いて-」のテーマで、お二人の先生が発表された講演には感銘を受けました。
群馬大学、安倍正敏先生は「患者会と適切な距離感を保つ重要性」と題し、「・・・・、他方、患者との懇親の場ではとことん距離を近くする。患者と酒を酌み交わすことに異論もあろうが、私にとって患者のホンネを知る貴重な時間は「乾癬治療のエキスパート育成」の大切な課外授業である。」の内容を、そして大分県立病院 佐藤俊宏先生は、「患者は患者を救う、医師も救われる」と題して、「患者の気持ちは同じ病気に悩む患者が一番よく理解できる、患者はかたわらにいるだけで患者を救うことができるのである。そして患者会活動はその範囲にとどまらず、多くの方々が熱心に勉強し、最新の情報を共有している。この情報は医師にとっても有益であり、私は大いに救われてきた。また全国の患者会による署名活動のおかげで私たちは生物学的製剤の使用をいち早く手にすることができた。すべての患者、皮膚科医が救われている。」の内容をお話しされました。また医師のみならずエキスパートナースの重要性も、聖路加国際病院皮膚科看護師の金児玉青さんから報告されました。

 最後に東京慈恵医大から発表された「一般社会における乾癬に対する認識度調査」を紹介します。
乾癬の罹患がなく、家族にも患者がいない一般人1030名(20~60歳の男女)に対して、インターネットで調査を行なったとのことです。
結果① 「乾癬」 という病気を知っているか?
知っていた9.5%  聞いたことがある 40.9% 知らなかった49.6%
結果② 「乾癬」を認識していた50.4%(519名)の認知の内容は、
かゆみが激しい病気66.5%
皮膚がはがれる病気51.1%
原因は感染症33%
電車やレストランでの同席を避ける47%
入浴、水泳中の接触を避ける76%
自身が乾癬だったら肌を出したくない72%
自身が乾癬だったら精神的につらい61%
(結 語)日本社会一般での乾癬に対する認知度は低く、乾癬の特徴として「症状がうつる」、発症原因として「乾癬→かんせん=感染、伝染性」という誤解が根強い。乾癬患者のQoL向上の一環として、患者会と乾癬学会による正しい広報活動を行なっていくことが重要である 。

 生物学的製剤の登場により大きく様変わりすることが確実な乾癬治療ですが、やはり患者さんと一緒に歩みを進めながら治療法を選択したり、治療を続けたり、あるいは乾癬の正しい理解をふかめるための社会活動も繰り広げたり、もちろん生物学的製剤だけではなくさまざまな治療法に精通した乾癬治療エキスパートでありたいと実感した2日間でした。

 学会終了後には、全国患者会が主催した学習懇談会も開催され、山口大学の山口先生が参加された大勢の患者さんに乾癬を分かりやすく講演されました。その後の懇親会では、それこそ「とことん距離を近くする」宴会場で全国患者会の皆さんと懇談することができました。涙と笑いの連続でしたが、患者会の輪は山口県にも広がりそうです。
# by kobayashi-skin-c | 2010-10-27 15:24 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
2010年9月28日教室 『乾癬と暮らす泣き笑いの25年』
乾癬、シャルコー・マリー・トゥース病を持ちながらも前向きに生き、乾癬患者会作りに、また乾癬の会を全国に広めるために奔走された岡部伸雄さんからお話をお伺いしました。岡部さんは、豊富温泉湯快宿の前管理人であり、その当時の思い出深い写真、短歌も交えながらのお話で、たいへん感銘深いものでした。

岡部さんの短歌のいくつかをご紹介させていただきます。
  持つすべを 人に捧ぐる喜びよ 知る人ぞ知る これぞ生きがひ
  黄昏の 海辺に遊ぶ 君たちに 笑いと夢を 僕はあげたい
  最北の 温泉郷に点る灯と いで湯に明日をたくしていやす

岡部さんが患者会を通して得たことには次のようなことがあったとのことで、前向きに生きること、病気をコントロールする力を得ることが大切とお話しされました。
•思いを語り合える場を持てたこと-交流・懇談会・会報・個別つながり・相談・湯治ツアー
•世界的、全国的な最先端医療を聴く事ができたこと-全国・地域的学習懇談会、会報、患者世界会議
•「自分だけなぜこんな目に」の孤立感から解放されたこと
•自らはもとより、他の人の幸せをも考えられる豊かさを持てたこと -活動持続の源泉
•病気を持っていても楽しく生きるすべを身につけられたこと

また岡部さんの経験から、これから望まれる良い医療とは、
•① 患者の話をよく聴く ② 治療方法を丁寧に話し患者の選択権を認める ③ 患者(会)と共によりよき医療を研究するー運動の中でつかんだ三つの判断基準
•これからの医療は「患者・医師の協力共同、患者は聞くばかりでなく語れ、全国に患者会を」(2003年飛騨高山での当時の日本乾癬学会理事長金子先生の談話)
•原点は「医療の民主主義」(2004年山形での米国カリフォルニア大学クー先生の講演)
•小林先生の全人的医療

岡部さんのこれらの短歌、写真、そして随想は自らのホームページ『乾癬と暮らす』をご覧ください。
http://www2.ocn.ne.jp/~nob300/
# by kobayashi-skin-c | 2010-09-29 14:23 | 「皮膚の健康教室」抄録 | Comments(0)
2010年9月 秋の大雪山系
2010年は異例の暑さで紅葉は遅れるものと思っていた。そして暑さで焼けた木々の葉は、無残な茶色に焼け焦げているものと思っていた。けれども訪れた9月の大雪の山々の頂近くには、素晴らしい紅葉が広がっていた。

愛山渓温泉から永山岳、安足間岳、そして愛別岳
永山岳に広がるウラシマツツジの紅葉
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永山岳から望む愛別岳、この後は霧に隠れてしまった
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層雲峡から黒岳へ、そしてお鉢巡り
ナナカマドの向うに凌雲岳
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チングルマの赤い絨毯、その向うに北海岳
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北海沢の紅葉、後の山は北海道第二の高峰、北鎮岳
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冷え込んだ朝、紅いウラシマツツジの葉を霜が縁取る
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紅葉を欲張った翌週の旭岳は一面の銀世界。6日前の紅葉が嘘のように葉を落とし、赤いナナカマドの実だけが秋の名残を留めていた。群青色の空、白い雪、ハイマツの緑も素晴らしかったが、すでに冬山。目指した中岳分岐では、前日に遭難・凍死事故が起こっていた。
白銀の旭岳
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わずかに残る紅葉と、後方の当麻岳、安足間岳
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旭岳山麓の宿「アートヴィレッジ杜季」の窓辺から、旭岳を望む
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# by kobayashi-skin-c | 2010-09-29 13:49 | PHOTO & ESSAY | Comments(0)
2010年8月 初秋の十勝岳、美瑛岳
初秋の十勝岳を訪れた。秋晴れの空のもと、望岳台の登山口からまず美瑛岳に登り、十勝岳へと縦走した。美瑛岳への登りでは、エゾオヤマノリンドウ、タカネオミナエシ、イワギキョウの秋の花々が山を彩っていた。十勝岳は一変して灰色の火山礫と火山灰に覆われ、月面のような不気味で無機質な山肌。二つの異なった山に堪能した。

エゾオヤマノリンドウと美瑛岳、左後方は美瑛富士
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美瑛岳から十勝岳の縦走路、滑りやすい火山灰で覆われた道をいく
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望岳台から今日登った山を振り返る、左が美瑛岳、右が十勝岳
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# by kobayashi-skin-c | 2010-09-29 13:15 | PHOTO & ESSAY | Comments(0)
2010年7月 乾癬国際会議2010(パリ)
2010年7月1日-3日パリにおいて、Psoriasis 2010 Congress of The Psoriasis International Networkが開催されました。そして7月4日、5日にはIFPA(International Federation of Psoriasis Associations 乾癬患者組織国際連盟)年次総会があり、両者に出席してまいりました。その模様は健康教室抄録欄に掲載しております。滞在中の7日間、素晴らしいお天気に恵まれパリの町を散策。その街角の風景をお楽しみください。

まずは凱旋門から出発
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そしてエッフェル塔
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セーヌとノートルダム大聖堂
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お散歩、お昼寝、道端のカフェ
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モンマルトルの丘、サクレ・クール寺院
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IFPA会議場(サン・ルイ病院ムラージュ博物館)。ムラージュとはフランス語で「型取り・成形」を意味する単語を語源とし、一説では16世紀のルネッサンス期に作成された蝋人形がその起源の一つともされる。かつては石膏で採った患部の型に蝋を流し込んで作成したものに色付けをして仕上げられた。欧米では19世紀に多くが作成され、日本でも明治の終わり頃から昭和30年代まで数多くが作られ、皮膚科の教育に役立った。しかし、カラー写真を始めとする記録技術の向上によって一旦はその役目を終えた。しかし、この技術はマダムタッソーの蝋人形館、日本のレストランの前に飾る蝋細工物などに生かされている(Wikipediaから抜粋)。
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夜の凱旋門
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夜の凱旋門からシャンゼリゼ通りをのぞむ、遠くにモンマルトルの丘
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夜のエッフェル塔(ワールドカップすりの賊はまさにこのあと襲った)
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# by kobayashi-skin-c | 2010-08-25 12:46 | PHOTO & ESSAY | Comments(0)